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マリーシアの意味とは?日本人が誤解している「悪意」と「知性」の差

解説





サッカーにおける「マリーシア(Malicia)」の包括的研究:文化的起源、歴史的変遷、現代戦術における功罪、そして日本サッカーの覚醒

  1. 1. 序論:競技規則の隙間に棲む「第12の選手」
  2. 2. 語源と文化的土壌:ブラジル社会の鏡としての「マリーシア」
    1. 2.1 言語学的定義と誤解
    2. 2.2 「ジェイチーニョ(Jeitinho)」:ブラジル的解決法
    3. 2.3 概念のグラデーション:ジェイチーニョ、マランドラージ、マリーシア
  3. 3. マリーシアの解剖学:ピッチ上の具体的戦術分類
    1. 3.1 身体的マリーシア:ファウルを「創る」技術
      1. A. 接触の誘発(Drawing the Foul)
      2. B. 痛みの演出(Embellishment)
    2. 3.2 時間的マリーシア:時計の針を支配する「ダーク・アーツ」
    3. 3.3 心理的マリーシア:相手の精神を破壊する
  4. 4. 歴史を変えたマリーシアの巨匠たち:ケーススタディ
    1. 4.1 ディエゴ・マラドーナ:「神の手」と狡知の極み(1986年メキシコW杯)
    2. 4.2 ディエゴ・シメオネ vs デビッド・ベッカム:「退場の罠」(1998年フランスW杯)
    3. 4.3 ルイス・スアレス:「悪魔のセーブ」(2010年南アフリカW杯)
  5. 5. VAR時代の「マリーシア2.0」:テクノロジーとのいたちごっこ
    1. 5.1 「見えない反則」から「見える権利」へ
    2. 5.2 「タクティカル・ファウル(戦術的ファウル)」の体系化
    3. 5.3 心理戦の新たな戦場
  6. 6. 日本サッカーとマリーシア:FC町田ゼルビアが突きつけた「踏み絵」
    1. 6.1 歴史的背景:美学と勝利のジレンマ
    2. 6.2 FC町田ゼルビア・黒田剛監督の挑戦
      1. 町田ゼルビアのスタイルと批判の論点
      2. 黒田監督の哲学:「ルール内なら武器である」
  7. 7. 結論:マリーシアの功罪と未来
    1. 7.1 マリーシアの多面性
    2. 7.2 提言:日本サッカーの進むべき道
  8. 付録:データと参照資料
    1. 関連用語集
    2. 関連記事

1. 序論:競技規則の隙間に棲む「第12の選手」

サッカーというスポーツは、ピッチ上の22人の選手、1つのボール、そして厳格なルールブック(Laws of the Game)によって構成されている。しかし、スタジアムの熱狂や歴史の記録を支配するのは、しばしばルールブックの「行間」に存在する不可視の力学である。その力学の最たるものが「マリーシア(Malicia)」である。

日本では長らく、この言葉は「ずる賢さ」「審判を欺く行為」「スポーツマンシップに反する悪徳」としてネガティブな文脈で語られてきた。少年サッカーの現場では忌避され、メディアでは敗戦の言い訳として、あるいは対戦相手の不当性を訴える言葉として消費されてきた歴史がある 1。しかし、世界のフットボール・スタンダード、特に南米や南欧の勝負の世界において、マリーシアは単なる反則ではない。それは技術(テクニック)、戦術(タクティクス)、体力(フィジカル)と並ぶ、勝敗を決定づける「第4の要素」であり、「勝つための知恵(Intelligence to Win)」として、称賛と尊敬の対象ですらある

本レポートは、マリーシアという概念を多角的に解剖する試みである。ブラジル社会に根付く独特の処世術「ジェイチーニョ」に端を発する文化的起源から、ディエゴ・マラドーナやルイス・スアレスといった歴史的プレーヤーたちが演じた劇的な瞬間、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)導入によって変容を迫られる現代の「ダーク・アーツ(Dark Arts)」、そしてFC町田ゼルビアの躍進によって日本国内で再燃する「勝利至上主義 vs スタイル」の論争までを網羅的に分析する。15,000語に及ぶ本稿を通じて、マリーシアを単なる「悪」として切り捨てるのではなく、極限の勝負における人間臭い駆け引きの結晶として再定義し、その全容を解明する。


2. 語源と文化的土壌:ブラジル社会の鏡としての「マリーシア」

マリーシアを理解するためには、それが生まれた土壌であるブラジル、ひいてはラテンアメリカの社会構造と精神性を深く理解する必要がある。サッカーは社会の鏡であり、ピッチ上の振る舞いはその国の文化コードを色濃く反映する。

2.1 言語学的定義と誤解

ポルトガル語の「Malícia」は、直訳すれば「悪意」「悪気」「茶目っ気」を意味する。英語の「Malice」と同根であるが、ブラジルポルトガル語の文脈、特にサッカーにおいて使用される場合、そのニュアンスは大きく異なる。それは「したたかさ」「機転」「予期せぬ困難を回避する知恵」を指し、英語圏における「Cunning(狡猾さ)」や「Street Smart(ストリート・スマート)」、あるいは「Craftiness(老練さ)」に近い概念へと昇華される 1

日本においてマリーシアが「シミュレーション(審判を欺いてファウルをもらう行為)」と同一視されがちなのは、導入初期の報道や解釈の過程で、その多層的な意味が捨象され、「ズル」という側面のみが強調されたためである。しかし、本質的には「正直者が馬鹿を見ないための防衛術」という側面が強い。

2.2 「ジェイチーニョ(Jeitinho)」:ブラジル的解決法

マリーシアの根底には、ブラジル社会の根幹をなす「ジェイチーニョ(Jeitinho Brasileiro)」という概念が存在する

  • 定義: 「Jeito(方法)」に指小辞「-inho」がついた言葉で、「小さな方法」「なんとかする方法」を意味する。硬直した官僚制度、不備の多い法システム、貧困や格差といった社会的不条理に対し、正規のルート(ルール)を迂回し、個人的な交渉や機転、コネクションを使って問題を解決するブラジル独特の社会的スキルである 6

  • サッカーへの適用: この「生き抜くための即興性」がピッチに持ち込まれたとき、それは「ルールブックに書かれていない解決策」を探す行為となる。体格で劣る選手が大男に勝つためにファウルを誘う、劣勢のチームが時間を稼いでリズムを断ち切る、これらはすべて「ピッチ上のジェイチーニョ」である。

2.3 概念のグラデーション:ジェイチーニョ、マランドラージ、マリーシア

ブラジル文化には、ルールとの距離感を示すいくつかの概念が存在する。これらを整理することで、マリーシアの立ち位置が明確になる。

概念 原語 意味・ニュアンス サッカーにおける具体例 社会的評価
ジェイチーニョ Jeitinho 柔軟な解決策、融通。ルールを「曲げる」が、必ずしも他者に害を与えない。 審判と友好的に会話して心証を良くする。不利な状況を知恵で打開する。 「生きる知恵」として肯定的、時に不可欠。
マリーシア Malicia したたかさ、駆け引き。相手を陥れる意図を含むが、勝負の範疇。 ファウルを誘発する体の使い方。相手を苛立たせる言動。時間を使う。 「試合巧者」の証明。競技者として必要な資質。
マランドラージ Malandragem 悪党の術、詐欺的行為。ルールを完全に「破る」。 接触ゼロでのダイブ。唾を吐く等の隠れた暴力。完全な欺瞞。 「マランドロ(あらくれ者)」の技。倫理的に批判されることもあるが、美学とする層もいる。

このように、マリーシアは「ジェイチーニョ(機転)」と「マランドラージ(悪徳)」の中間に位置し、スポーツマンシップの境界線上で踊るような危うさと魅力を併せ持っている


3. マリーシアの解剖学:ピッチ上の具体的戦術分類

マリーシアは抽象的な概念ではなく、具体的なスキルセットの集合体である。それは大きく「身体的マリーシア」「時間的マリーシア」「心理的マリーシア」の3つに分類できる。

3.1 身体的マリーシア:ファウルを「創る」技術

サッカーにおいて、ファウルは「犯す」ものではなく「もらう(Win a foul)」ものであるという考え方が、マリーシアの基本にある。これはシミュレーションとは異なり、相手の動作を利用する合気道のような技術である

A. 接触の誘発(Drawing the Foul)

ドリブラーが最も得意とする技術。相手ディフェンダーが不用意に足を出した瞬間、その軌道上に自らの体を割り込ませる。

  • メカニズム: 相手の足が届く範囲にボールを晒し、相手が食いついた瞬間にボールを隠し(シール)、相手の足が自分の足や体に当たるように誘導する。

  • 代表的選手: ネイマール、ジャック・グリーリッシュ、エデン・アザール。彼らは「被ファウル数」が多いが、それは単に標的にされているだけでなく、意図的にファウルを「獲得」している証左である 9

B. 痛みの演出(Embellishment)

実際に接触があった際、その衝撃を視覚的に増幅させる行為。

  • 目的: 審判にファウルの事実を認識させ、あわよくばカードを提示させること。

  • 技術: 接触の瞬間に大声を上げる、必要以上に転がる、患部を押さえて悶絶する。ネイマールが2018年W杯で見せた「ローリング」は過剰すぎてミーム化したが、本質的には審判へのアピールである 9

3.2 時間的マリーシア:時計の針を支配する「ダーク・アーツ」

リードしているチーム、あるいは引き分け狙いのチームが行う時間稼ぎ(Time-Wasting)は、現代サッカーにおいて最も論争を呼ぶマリーシアの一つである

【主要な時間稼ぎテクニックとそのメカニズム】

テクニック名 実行内容 目的と効果 ルール上のリスク
コーナーフラッグ・キープ 敵陣コーナー付近でボールをキープし、相手に当ててスローイン/CKにする。 プレー時間を消費しつつ、自陣ゴールからボールを遠ざける。 リスク低。フィジカルと技術が必要な正当プレー。
セットプレーの遅延 スローインやFKの際、ボールをゆっくりセットする、投げる場所を探すふりをする。 試合のリズム(フロー)を断ち切り、相手の反撃意欲を削ぐ。 遅延行為でイエローカードの可能性あり。
GKの6秒ルール限界利用 キャッチ後、地面に倒れ込み、立ち上がる時間をかけ、キックまで時間を費やす。 数十秒単位で時間を消費。相手FWを苛立たせる。 厳格に適用されれば間接FKだが、実際は稀。
「戦術的」負傷 接触後にピッチに倒れ込み、起き上がらずにメディカルスタッフを要請する。 試合を完全に停止させ、味方の休息と指示伝達の時間を作る。 アディショナルタイム追加の要因となる。
交代時の牛歩 交代ボードが出た際、ピッチの反対側にいても歩いてベンチへ向かう。 残り時間の消費と、相手のリズム崩し。 2019年ルール改正で「最短距離からの退出」が義務化され減少。

3.3 心理的マリーシア:相手の精神を破壊する

見えないナイフで相手の心を刺すような、精神的な駆け引きである。

  • 挑発(Trash Talk): マークする相手に対し、侮辱的な言葉や家族に関する言及、プレーへの嘲笑を囁き続ける。ジネディーヌ・ジダンがマルコ・マテラッツィの言葉に激昂し頭突きを見舞った(2006年W杯)事例は、心理的マリーシアが物理的暴力を引き出し、試合を決定づけた究極の例である

  • 審判への包囲(Mobbing the Referee): 判定に対し、チーム全員で審判を取り囲み、威圧感を与える。これは単なる抗議ではなく、次回の際どい判定で有利な笛を吹かせるための「種まき」である。

  • PK戦の妨害: ボールを相手に渡さない、ペナルティスポットを荒らす、キッカーに話しかける。エミリアーノ・マルティネス(アルゼンチン代表GK)が2022年W杯で見せた一連の行為は、この分野の新たな教科書となった。


4. 歴史を変えたマリーシアの巨匠たち:ケーススタディ

サッカーの歴史的転換点には、必ずと言っていいほどマリーシアの影がある。ここでは、その象徴的なエピソードを深掘りする。

4.1 ディエゴ・マラドーナ:「神の手」と狡知の極み(1986年メキシコW杯)

マリーシアを語る上で避けて通れないのが、アルゼンチンの英雄ディエゴ・マラドーナである。

  • 事件: 1986年W杯準々決勝イングランド戦。後半6分、浮き球に対してGKピーター・シルトンと競り合ったマラドーナは、左手を突き出してボールをゴールに叩き込んだ。

  • 分析: 身長165cmのマラドーナが183cmのシルトンに勝つための、瞬時の判断(ジェイチーニョ)であった。彼はゴール直後にチームメイトに「祝うんだ!早く来い!さもないと審判に認められないぞ!」と叫んだという。この「共犯関係」の構築も含め、彼のマリーシアは完成されていた 3

  • 文脈: フォークランド紛争(1982年)の因縁を含む対イングランド戦でのこの行為は、アルゼンチン国内では「機転の利いた復讐」として正当化され、神格化された。

4.2 ディエゴ・シメオネ vs デビッド・ベッカム:「退場の罠」(1998年フランスW杯)

アルゼンチン代表の現役時代、ディエゴ・シメオネ(現アトレティコ・マドリード監督)は「マリーシアの体現者」であった。

  • 事件: 決勝トーナメント1回戦、アルゼンチン対イングランド。シメオネは背後からベッカムに激しくチャージし、彼を押し倒した。苛立ったベッカムがうつ伏せの状態で足を上げ、シメオネのふくらはぎを軽く蹴った(あるいは引っ掛けた)瞬間、シメオネは大げさに後ろに倒れ込んだ

  • マリーシアの構造:

    1. 挑発: 最初に激しいファウルでベッカムの冷静さを奪う。

    2. 誇張: ベッカムの報復行為自体は軽微(「撫でた程度」とも言われる)だったが、シメオネは「劇的な転倒」で審判に視覚的インパクトを与えた。

    3. 確信: シメオネは後に「ベッカムが足を上げた瞬間、退場にできると直感した。チャンスを利用しない手はない」と語っている

  • 結果: ベッカムは一発退場。数的不利のイングランドはPK戦で敗退。この事件は、若きスターの純粋さが、老獪な勝負師の罠に嵌められた象徴的事件として語り継がれている。

4.3 ルイス・スアレス:「悪魔のセーブ」(2010年南アフリカW杯)

ウルグアイ代表ルイス・スアレスがガーナ戦で見せたプレーは、マリーシアと自己犠牲の境界線を問うものであった。

  • 事件: 延長後半終了間際、ガーナの決定的なヘディングシュートを、スアレスがゴールライン上で両手を使ってバレーボールのように弾き出した

  • 結果と評価: スアレスは即座にレッドカードで退場し、ガーナにPKが与えられた。しかし、アサモア・ギャンがこのPKを外し、PK戦の末にウルグアイが勝利した。

  • マリーシアの究極系: 通常、ハンドは反則である。しかしこの場面では、「ゴールされれば100%敗退」に対し、「退場してPKを与えれば、GKが止めるか相手が外す確率が残る」という冷徹な計算が働いている。スアレスは後に「僕がW杯で最高のセーブをした」と語ったが、これはルールを破ることでチームを救う、マリーシアの最も極端な形(プロフェッショナル・ファウル)であった


5. VAR時代の「マリーシア2.0」:テクノロジーとのいたちごっこ

2018年ロシアW杯以降のVAR本格導入は、マリーシアの生態系を一変させた。「隠れて殴る」「何もないところで倒れる」といった古典的な手法は、高解像度カメラの前では無力化した。しかし、マリーシアは絶滅したわけではない。より洗練され、巧妙に進化した。

5.1 「見えない反則」から「見える権利」へ

VAR時代においては、「審判を騙す」ことのリスクが高まりすぎた。そのため、選手たちは「騙す」のではなく、「事実を最大限利用する」方向へシフトした。

  • 接触の待ち伏せ: ペナルティエリア内で、相手DFの足が少しでも残っていれば、自らその足に接触しに行く。映像で見ても「接触」は事実として残るため、VARでも覆りにくい(あるいはファウルが支持される)。

  • スローモーションの罠: VARのスロー映像では、軽微な接触でも衝撃が大きく見える傾向がある。選手はこれを利用し、接触があった瞬間のリアクションを計算するようになった。

5.2 「タクティカル・ファウル(戦術的ファウル)」の体系化

現代サッカー、特にジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ)以降の戦術において、マリーシアはシステム化された。それが「タクティカル・ファウル」である

  • 定義: 相手のカウンターの芽を摘むため、守備陣形が整っていない瞬間に、意図的にファウルでプレーを止める行為。

  • 特徴:

    • 場所: 自陣深くではなく、中盤や敵陣で行う(イエローカードのリスクを下げるため)。

    • 方法: 激しいタックルではなく、ユニフォームを軽く引っ張る、進路を体で塞ぐなど、怪我をさせずに確実に止める。

    • 組織性: チーム全体で「ここで止める」という共通意識を持ち、誰か一人が犠牲になるのではなく、チーム全体でファウル数を分散させる(ローテーション・ファウル)ことでカードの累積を避ける高度な運用が行われている

5.3 心理戦の新たな戦場

VARチェックの時間は、新たな心理戦の場となった。

  • レフェリーへの圧力: VARチェックを促すために、執拗に「モニターを見ろ」とジェスチャーを行う(これは警告対象だが、集団心理で行われる)。

  • 中断時間の利用: VAR判定待ちの数分間を利用して、監督が戦術修正を行ったり、選手が給水してリフレッシュしたりする。この「間」をどう使うかも、現代のマリーシアの一部となっている。


6. 日本サッカーとマリーシア:FC町田ゼルビアが突きつけた「踏み絵」

「日本人は真面目すぎる」「マリーシアが足りない」。これは日本サッカー界で30年以上繰り返されてきたクリシェである。しかし、2020年代に入り、Jリーグにおいてこの命題がかつてないほど激しい議論を呼んでいる。

6.1 歴史的背景:美学と勝利のジレンマ

  • ドゥンガの叱責: 1990年代、ジュビロ磐田でプレーした元ブラジル代表主将ドゥンガは、倒れた相手に手を差し伸べる日本人選手を「戦いの最中に優しさは不要だ」と叱責した。彼が伝えたかったのは、勝負への執着心(マリーシア)の欠如であった

  • オシムの皮肉: 元日本代表監督イビチャ・オシムは、「ライオンに襲われた野兎が逃げ出す時に肉離れをしますか?」と問いかけ、極限状態での「野生の賢さ」を求めた。

  • なでしこの気づき: 元なでしこジャパン宇津木瑠美は、海外での経験から「日本的な数的優位の守備」の限界と、「個で相手を嫌がらせる狡猾さ」の必要性を説いた

6.2 FC町田ゼルビア・黒田剛監督の挑戦

2023年、J2を制し、2024年にJ1で旋風を巻き起こしたFC町田ゼルビアは、現代日本におけるマリーシア論争の震源地となった。高校サッカーの名門・青森山田高校を率いた黒田剛監督が持ち込んだスタイルは、プロの舞台でも異彩を放った。

町田ゼルビアのスタイルと批判の論点

  1. 徹底した時間管理: リード時のプレー切断、スローインやセットプレーでの時間消費が徹底されており、「実際のプレーイングタイムが短い」との批判を浴びた

  2. ロングスローとセットプレー: タオルでボールを念入りに拭き、時間を使いながらロングスローを放り込む戦術は、相手のリズムを崩す(マリーシア的)効果と、物理的な攻撃力を兼ね備えていた。

  3. 「アンチフットボール」論争: 華麗なパスサッカーを良しとする風潮に対し、勝利のために手段を選ばない(ルールの範囲内で)姿勢は、「見ていてつまらない」「教育上良くない」という感情的な反発を招いた。

黒田監督の哲学:「ルール内なら武器である」

黒田監督は批判に対し、「ルール上でダメというわけではない以上、我々の武器として使う」「相手にクレームをつけられる理由はない」と一蹴している 29。 この態度は、マリーシアの本質を突いている。マリーシアとは「審判が笛を吹かない限り、それは正当なプレーである」というリアリズムに基づいている。町田ゼルビアの躍進は、「美しく負ける」ことに美学を見出しがちな日本サッカーに対し、「泥臭くても勝つ」ことの重みを突きつけた。それは、日本サッカーが世界基準の「勝負強さ」を獲得するために通過しなければならない「踏み絵」なのかもしれない。


7. 結論:マリーシアの功罪と未来

本レポートの調査を通じて明らかになったのは、マリーシアを一概に「善」か「悪」かで断罪することの不毛さである。

7.1 マリーシアの多面性

  • 技術としての側面: 体格やスピードで劣る者が勝つための「イコライザー(均衡装置)」としての機能。

  • 戦術としての側面: 試合の流れ(モメンタム)を制御し、リスクを管理する高度なゲームマネジメント能力。

  • 倫理としての側面: フェアプレー精神(Fair Play)との対立。特に育成年代において、勝利至上主義が技術習得や道徳的成長を阻害するリスクは常に存在する。

7.2 提言:日本サッカーの進むべき道

世界大会で日本代表が「あと一歩」で敗れる要因の一つとして、常に「試合巧者(Game Management)」の不足が挙げられる(例:2018年W杯ベルギー戦の最後の14秒)。

マリーシアを「汚いプレー」として忌避するのではなく、「クリバー(Clever:賢い)なプレー」として再定義し、その技術体系を学ぶことは不可欠である。ただし、それは「シミュレーションの練習」をすることではない。「相手が何を嫌がるかを知る」「ルールの隙間を理解する」「審判の心理を読む」といったフットボール・インテリジェンスを高めることと同義である。

VARが監視する現代において、嘘はすぐにバレる。しかし、真実を利用した駆け引き(マリーシア)はなくならない。サッカーが人間同士のコンタクトスポーツであり、審判という人間が裁く競技である限り、マリーシアはピッチ上の「第12の選手」として、勝負の行方を左右し続けるだろう。


付録:データと参照資料

関連用語集

用語 意味 備考
Simulation シミュレーション 欺瞞行為。イエローカード対象。マリーシアの一部だが、最もリスクが高い。
Tactical Foul タクティカル・ファウル 決定機阻止のための戦略的ファウル。現代守備の必須戦術。
Professional Foul プロフェッショナル・ファウル 得点機会阻止(DOGSO)覚悟のファウル。スアレスのハンドが典型例。
Dark Arts ダーク・アーツ 英語圏でのマリーシアの呼称。「闇の魔術」の意。モウリーニョやシメオネが得意とする。
Shithousery シットハウズリー 英スラング。相手を不快にさせ、試合を荒らす行為全般。近年SNSで多用される。

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