サッカーの試合終盤、電光掲示板に表示される「+3」「+5」といった数字。これが「アディショナルタイム」です。
かつて日本では「ロスタイム」と呼ばれていたこの時間帯は、近年のルール改正やテクノロジーの導入によって大きく変化しています。2023-24シーズン以降、試合時間が100分を超えることも珍しくなくなりました。
この記事では、アディショナルタイムの意味や計算方法、ロスタイムとの違い、最新のルール変更、選手への影響、そして歴史に残るドラマチックな名場面まで、初心者にもわかりやすく徹底的に解説します。
「なぜ表示された時間より長く試合が続くの?」「最近の試合時間が長いのはなぜ?」といった疑問にもお答えします。
アディショナルタイムとは何か?基本の意味を解説
アディショナルタイムとは、サッカーの前半・後半それぞれの終了時に追加される時間のことです。
サッカーはランニングタイム制を採用しています。これは、プレーが中断してもタイマーが止まらずに進み続ける方式です。バスケットボールやアメリカンフットボールのようにプレーが止まるたびに時計も止まる方式とは異なります。
そのため、試合中に発生する以下のような中断時間は、正規の45分間から「失われた時間」となります。
・選手交代の手続き
・負傷者の治療や担架の搬入出
・得点後のセレブレーション(お祝い)
・ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)による判定確認
・レッドカード提示に伴う退場処理
・ペナルティキック(PK)前の抗議や遅延
・観客のピッチ侵入などの例外的事象
これらの中断で失われた時間を合計し、ハーフの最後に追加するのがアディショナルタイムの仕組みです。
この制度は、競技の公平性を守るために不可欠なメカニズムといえます。もしアディショナルタイムがなければ、リードしているチームが意図的に時間を浪費するだけで勝利を確定できてしまうからです。
ロスタイムとアディショナルタイムの違い
結論から言うと、ロスタイムとアディショナルタイムは同じものを指す言葉です。ただし、現在の正式な呼称は「アディショナルタイム」です。
「ロスタイム」は日本独自の呼称で、英語の「Loss of time(失われた時間)」に由来する和製英語です。海外ではこの言葉は通用しません。
一方、「アディショナルタイム(Additional Time)」は、FIFAなどで用いられる国際標準の用語です。
日本では2010年に日本サッカー協会(JFA)の審判委員会が「アディショナルタイム」への統一を決定しました。その後、2013年にはNHKの中継でも完全に切り替わり、段階的に定着していきました。
呼称が変更された背景には、単なる言葉の問題以上の意味があります。
「ロスタイム」には「無駄に消費されたネガティブな時間」という印象が含まれています。一方、「アディショナルタイム」は「プレーが停止した分の時間を試合に追加する、ルールに基づく正当な補填措置」という意味合いを正確に表しています。
この変更は、時間を厳格に管理し、純粋な競技時間を最大限に確保するという現代サッカーの哲学的なシフトを象徴しています。
アディショナルタイムの計算方法と具体的な基準
アディショナルタイムがどのように計算されるのか、多くのファンが疑問に思うポイントです。
FIFAは、時間を算出する際の具体的な基準値を設けています。主な目安は以下のとおりです。
・選手交代1回につき:約30秒
・得点後のセレブレーション:約1分
・VARの確認作業:実際に費やされた時間(数分間になることもある)
・負傷者の手当てや担架の搬入出:実際にかかった時間
・レッドカード提示に伴う退場処理:実際にかかった時間
・PK前の抗議による遅延:実際にかかった時間
これらすべての中断時間を主審が厳密に計測し、合算したものがアディショナルタイムとして提示されます。
ここで重要なポイントがあります。電光掲示板に表示される数字は、あくまで「最低限追加される時間」を示しているという点です。
提示されたアディショナルタイムの最中に、さらなる負傷や遅延行為が生じた場合、主審はその空費時間をさらに合算して試合を延長する権限と義務を持っています。
掲示板の数字が「3分」であっても、実際の終了時間が5分後や6分後になるケースが頻発するのは、追加時間内でも厳密な時間計測が継続して機能しているためです。
なぜ最近のサッカーはアディショナルタイムが長いのか
2023-24シーズン以降、試合時間が大幅に延びていることに気づいたファンも多いでしょう。その直接的な原因は、IFAB(国際サッカー評議会)による新たな指針にあります。
プロの試合であっても、実際にボールが動いている純粋なプレー時間(ボールインプレー時間)は50分から60分程度に留まるという実態が長年の課題でした。
時間稼ぎの巧みさが勝敗を左右する不公平な状況を排除するため、IFABは試合中の空白時間を実数に近い形で徹底的に合算するよう各国の審判団に指示を出しました。
従来は「交代1回につき30秒」といった大まかな推定計測が行われていました。しかし新指針の下では、現実の停止時間をそのまま反映する「実数運用」へとシフトしています。
新指針で厳密に加算される対象は多岐にわたります。
・ゴール後の集団での祝福、ベンチへの駆け寄り、再開までの整列にかかる時間
・VARによる事象確認やオンフィールドレビュー(OFR)に費やされた時間
・交代時の選手の移動時間
・ゴールキーパーの過度なボール保持
・意図的に時間をかけるスローイン
・その他の遅延行為(秒単位で計測)
この「推定計測から実数運用へのシフト」が、試合時間の長期化を引き起こした直接的な要因です。
なお、2024-25シーズンからは「得点後30秒間はアディショナルタイムに加算しない」という運用上の調整も一部リーグで導入され、過度な長時間化の緩和が図られています。
主要リーグの平均アディショナルタイム比較
2023-24シーズンのデータに基づく主要コンペティションの平均アディショナルタイムを見ると、試合時間の延長が世界規模で起きていることがわかります。
欧州5大リーグの中で最も追加時間が長いのは、スペインのラ・リーガです。毎試合平均して13分3秒の時間が加算され、全試合の84.6%が100分の大台を超えています。スペインの国内リーグではファウルの多さや抗議によるプレーの停止頻度が他国よりも高い傾向にあると考えられます。
イングランドのプレミアリーグでも平均11分46秒が追加され、全体の7割以上の試合が100分を超過しています。
中東に目を向けると、サウジアラビアのプロリーグでは平均試合時間が106分を超え、100分以上の試合が95.6%を占めるなど、世界各地で試合時間の延長が顕著です。
こうした試合時間の延長は、得点のタイミングにも影響を与えています。
2023-24シーズンのデータによれば、全得点に占めるアディショナルタイム内のゴール割合は以下のとおりです。
・ラ・リーガ:12.2%
・プレミアリーグ:11.8%
・ブンデスリーガ:11.4%
全ゴールのおよそ1割以上が正規の90分を過ぎた後に生まれています。この事実は、アディショナルタイムが単なる「残り時間」ではなく、勝敗を決定づける「第4のピリオド」として極めて高い戦術的価値を持っていることを示しています。
SAOT(半自動オフサイドテクノロジー)がアディショナルタイムを短縮する
テクノロジーの進化も、アディショナルタイムの在り方に大きな影響を与えています。その代表例が、SAOT(Semi-Automated Offside Technology/半自動オフサイドテクノロジー)です。
SAOTは、スタジアムの屋根下部に設置された12台の専用トラッキングカメラを利用し、ピッチ上のボールと全選手の動きを追跡する高度なシステムです。
主な特徴は以下のとおりです。
・各選手の四肢や関節など最大29箇所のデータポイントを追跡
・1秒間に50回の頻度(50Hz)でデータを捕捉
・ピッチ上での正確な三次元位置をリアルタイムで計算
・公式試合球の内部に配置された慣性計測装置(IMU)センサーが、ボールが蹴られた正確な瞬間を500Hzの精度で送信
これらのトラッキングデータと人工知能(AI)を組み合わせることで、攻撃側の選手がオフサイドポジションにいるかどうかを瞬時に判別し、VAR担当の審判員へ自動的にアラートを送る仕組みが構築されています。
イングランド・プレミアリーグでは、2024-25シーズンの第32節(2025年4月12日)からSAOTが正式導入されました。最初に使用されたのは、マンチェスター・シティ対クリスタル・パレス戦が行われたエティハド・スタジアムです。
従来のVAR確認作業では、担当者が手動で画面上にオフサイドラインを引いていました。SAOTの導入により、判定にかかる時間が平均31秒短縮されるという実証データが報告されています。
1試合中に複数回の際どいオフサイド判定が発生することを考慮すれば、テクノロジーの活用は試合全体の停止時間を数分単位で削減する効果を持ちます。試合のエンターテインメント性を損なわず、正確なジャッジを実現する上で、テクノロジーによる空費時間の最適化は今後のサッカー界における不可欠な要素です。
ゴールキーパーの新ルール「8秒ルール」とは
アディショナルタイムの問題と深く関連するルール変更として、ゴールキーパーのボール保持に関する新規則があります。
従来の競技規則(第12条2項)では、ゴールキーパーが手でボールを保持できる時間は最大「6秒」と定められていました。しかし実態として、ゴールキーパーの平均保持時間は7秒から8秒であり、6秒ルールが厳格に適用される場面は極めて稀でした。
厳格に適用されなかった理由は、罰則の重さにあります。違反に対する罰則は「ペナルティーエリア内での間接フリーキック」で、壁の設定や抗議により再開まで多大な時間を要するものでした。そのため、主審が笛を吹きづらいという構造的な問題が存在していました。
2025-26シーズンから適用される新ルールでは、以下のように変更されます。
・保持の制限時間を実態に即した「8秒」へ延長
・違反に対する取り締まりを厳格化
・ゴールキーパーがボールを完全にコントロールした瞬間から主審が計測を開始
・残り5秒の時点で、主審が片手を挙げて視覚的なカウントダウンを実施
・8秒を超過した場合、相手チームに「コーナーキック」を付与
間接フリーキックからコーナーキックへの罰則変更は、戦術的にも運営面でも合理的な判断です。
コーナーキックから得点が生まれる確率は統計上約2.2%とされています。守備側に適度なプレッシャーを与えつつ、試合を決定づけるほどの致命傷にはならない「絶妙なペナルティ」として機能します。
なお、このルールはインプレー中にゴールキーパーが手でボールを保持した場合にのみ適用されます。ゴールキックやフリーキックなどのセットプレーには適用されません。また、相手選手がボールのリリースを妨害した場合は、主審がカウントを停止し、ゴールキーパー側に間接フリーキックが与えられます。
視覚的なカウントダウンと適正化された罰則により、ゴールキーパーの過度なボール保持によるプレーの遅延が解消され、スムーズな試合展開が実現されると期待されています。
アディショナルタイムの長期化が選手に与える影響
試合時間の延長は、選手の身体に深刻な影響を及ぼしています。
通常90分で設計されている人間の身体能力に対し、頻繁に100分を超える負荷を強いる状況は、筋疲労の蓄積や関節へのダメージを指数関数的に増大させます。
選手の労働負荷を分析したデータによれば、イングランド・プレミアリーグの上位6クラブ(T6)に所属する選手たちは、過去のシーズンと比較して「過密な出場時間(Congested minutes)」の割合が13%から26%も増加しています。
毎試合のように長大なアディショナルタイムを戦うことは、年間50試合以上を消化するトッププロにとって、1シーズンあたり実質的に「5~6試合分のフルマッチ」を追加でプレーさせられている計算になります。
FIFPROのハイパフォーマンス諮問ネットワーク議長を務めるダレン・バージェス博士は、特に成長板、腱、靭帯が完全に成熟していない18歳以下(U18)および21歳以下(U21)の若年層の選手に対する特別な保護枠組みが必要不可欠であると指摘しています。
過度な高速スプリントの連続や短い回復期間がもたらす影響は以下のとおりです。
・長期的な構造的損傷のリスク増加
・精神的な疲弊
・長距離移動(飛行時間2時間以上)による睡眠やリカバリー時間の不足
事態の深刻さを受け、FIFPROは2025年6月、70名の独立した医学・パフォーマンス専門家による研究に基づき、12の合意ベースの選手保護ガイドラインを発表しました。主な内容は以下のとおりです。
・シーズン終了後の最低4週間のオフシーズン休暇の義務化
・そのうち2週間をクラブや代表チームとの接触を完全に断つ「ブラックアウト期間」に設定
・休暇明けの最低4週間の再トレーニング期間の確保
・試合間の最低2日間の休息
・週1日の完全休養日の義務化
これらは選手の健康寿命を守るための包括的な保護策です。
UEFAがIFABの厳格運用を採用しなかった理由
選手の労働負荷に対する懸念は、大会運営側の判断にも影響を与えています。
欧州サッカー連盟(UEFA)は、選手側の懸念と労働組合の主張を重く受け止め、チャンピオンズリーグなどの欧州コンペティションにおいて、IFABが推奨する極端なアディショナルタイムの厳格運用を採用しない決断を下しました。
FIFPROおよび各国選手会はUEFAの判断を「選手第一の素晴らしい決定」として高く評価しています。
この対応の分岐は、「有効プレー時間の最大化」を追求するIFABの理念と、「過密日程の中で選手を保護する」というコンペティション主催者側の現実との間に、大きな思想の違いが存在していることを示しています。
公平な競技の実現と選手の健康保護という、どちらも重要な2つの目標をどのように両立させるかは、サッカー界全体が取り組むべき課題です。
アディショナルタイムに生まれた歴史的なドラマ
残された数十秒の扱い方が、シーズンの目標やタイトルの行方を直接的に左右します。極度のプレッシャーと肉体的限界が交差するアディショナルタイムは、サッカー史に刻まれる数々の奇跡と悲劇の舞台となってきました。
カンプ・ノウの奇跡(1999年)
1999年のUEFAチャンピオンズリーグ決勝は、サッカー史上最も劇的な試合のひとつです。
バイエルン・ミュンヘンに0-1でリードを許していたマンチェスター・ユナイテッドが、後半アディショナルタイムのわずか3分間で同点ゴールと逆転ゴールを立て続けに奪いました。テディ・シェリンガムが91分に同点弾を決め、オーレ・グンナー・スールシャールが93分に決勝点を叩き込み、絶望的な状況から欧州の頂点へと上り詰めました。
アグエロの劇的ゴール(2012年)
2012年のイングランド・プレミアリーグ最終節も忘れられない試合です。
勝利が優勝の絶対条件であったマンチェスター・シティが、93分20秒にセルヒオ・アグエロの劇的な逆転ゴールを記録し、44年ぶりのリーグ制覇を成し遂げました。実況のマーティン・タイラーによる「アグエロォォォ!」の絶叫は、プレミアリーグ史上最も有名な瞬間のひとつとして語り継がれています。
ドーハの悲劇(1993年)
一方で、アディショナルタイムは残酷な結末を生むこともあります。
1993年のワールドカップ・アジア最終予選で、日本代表は本大会出場を目前にした後半アディショナルタイムに、イラク代表に同点ゴールを許しました。初のワールドカップ出場という夢が、最後の最後で打ち砕かれた瞬間です。この試合は「ドーハの悲劇」として、日本サッカー史に深く刻まれています。
足がつりながらもスプリントを繰り返す選手たち、ピッチ脇で声を枯らす監督、祈るように両手を合わせるサポーターの表情。アディショナルタイムに繰り広げられる極限の人間ドラマは、競技の枠を超えた究極のエンターテインメントとして、観る者の心を強く惹きつけてやみません。
よくある質問
Q. アディショナルタイムとロスタイムは何が違うのですか?
A. 意味は同じです。どちらも試合中に中断で失われた時間を補填するために追加される時間を指します。「ロスタイム」は日本独自の和製英語で、海外では通用しません。2010年に日本サッカー協会が国際標準の呼称である「アディショナルタイム」に統一しました。現在の公式な名称はアディショナルタイムです。
Q. 電光掲示板に表示された時間で試合が終わらないのはなぜですか?
A. 掲示板に表示される数字は「最低限追加される時間」を示しています。アディショナルタイム中にさらに負傷者の治療や遅延行為が発生した場合、主審はその分の時間をさらに上乗せする権限と義務を持っています。そのため、表示が「3分」でも実際には5分や6分後に試合が終了するケースが頻発します。
Q. 最近の試合でアディショナルタイムが長くなったのはなぜですか?
A. IFAB(国際サッカー評議会)が、試合中の空白時間を大まかな推定ではなく、実際の停止時間をそのまま反映する「実数運用」へと指針を変更したためです。ゴール後のセレブレーション、VARの確認作業、選手交代の移動時間など、すべての中断が厳密に計測されるようになりました。その結果、平均試合時間が100分を超えるリーグも出ています。
Q. ゴールキーパーの「8秒ルール」とは何ですか?
A. 2025-26シーズンから適用される新ルールです。従来はゴールキーパーのボール保持制限が「6秒」でしたが、実態に即して「8秒」に延長されました。同時に、違反時の罰則が「間接フリーキック」から「コーナーキック」に変更され、より厳格に取り締まられます。主審は残り5秒から視覚的なカウントダウンを行います。
Q. アディショナルタイムの長期化は選手の身体に影響がありますか?
A. はい、深刻な影響があります。毎試合のように100分を超える負荷は、筋疲労や関節のダメージを増大させます。年間50試合以上をこなすトッププロにとっては、1シーズンで実質「5~6試合分のフルマッチ」が追加される計算です。FIFPROは選手保護のガイドラインを発表し、最低4週間のオフシーズン休暇やブラックアウト期間の設定を求めています。
まとめ
ルールとテクノロジーの進化により、アディショナルタイムは単なる「残り時間」から「厳密に管理された第4のピリオド」へと変貌を遂げました。
かつて「ロスタイム」と呼ばれていた時代から、呼称の変更、IFABによる実数運用への移行、SAOTの導入、ゴールキーパーの8秒ルールの施行と、アディショナルタイムを取り巻く環境は大きく変わり続けています。
有効プレー時間の確保による公平性の追求と、選手が直面する労働負荷という相反する課題を抱えながらも、試合最終盤に生まれる熱狂と戦術的な奥深さは、今後もサッカーというスポーツの最大の魅力であり続けるでしょう。
次にサッカー観戦をする際は、アディショナルタイムに表示される数字の背景にある仕組みやルールを思い出してみてください。何気ない「+5」の表示が、まったく違った意味を持って見えるはずです。
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