FAカップとは?世界最古の「魔法」と2025-26シーズンの全貌【完全網羅】
イングランド・フットボール界において、プレミアリーグと並び称される栄光、それが「FAカップ(The FA Cup)」です。1871年に創設されたこの大会は、単なるサッカートーナメントではありません。世界最古の歴史を持ち、アマチュアから世界最高峰のプロクラブまでが同じピッチで戦う、まさに「夢」と「ロマン」が詰まった舞台なのです。
2026年1月26日現在、2025-26シーズンは佳境を迎えつつあります。本記事では、FAカップの基礎知識から、複雑なルール変更、最新の賞金事情、そして何よりもファンを魅了してやまない「ジャイアントキリング(番狂わせ)」の歴史まで、専門家の視点で徹底的に解説します。競合サイトや最新の現地情報を網羅し、プレミアリーグとの違いや、日本からの視聴方法(2025-26シーズン最新版)も含めた、FAカップのすべてが分かる完全ガイドをお届けします。
1. FAカップの基礎知識:なぜこれほど特別なのか?
1.1 世界最古の歴史と権威
FAカップ(The Football Association Challenge Cup)は、1871-72シーズンに創設された世界で最も古いナショナルフットボール大会です 。この事実は単なる記録以上の意味を持ちます。近代サッカーの母国イングランドにおいて、リーグ戦(フットボールリーグ)が開始されたのが1888年であることを考えると、FAカップはそれよりも17年も前から存在していたことになります。つまり、FAカップの歴史は、サッカーという競技そのものの歴史とほぼ同義なのです。
イングランドサッカー協会(FA)に登録されているすべてのクラブに参加資格がある「オープン・トーナメント」であることが最大の特徴です。プロフェッショナルであるプレミアリーグのクラブから、普段は別の仕事を持ちながらプレーするアマチュア選手たちのクラブまで、約700以上のチームが同じトロフィーを目指します 。この構造こそが、英国社会におけるフットボールの深さと広がりを象徴しています。
150年以上の歴史の中で、FAカップは数々のドラマを生み出してきました。多くの選手にとって、サッカーの聖地「ウェンブリー・スタジアム」で行われる決勝戦のピッチに立つことは、キャリアにおける最高の栄誉の一つとされています 。その歴史の深さは、近代サッカーの母国イングランドの誇りそのものであり、単なるタイトルの獲得以上の意味を持っています。優勝カップに刻まれた歴代王者のリストを見るだけで、イングランドフットボールの変遷、覇権の移動、そして時代の空気を読み取ることができるのです。
1.2 「オープン・ドロー」が生む無慈悲なドラマ
FAカップの最大の魅力の一つにして、最も残酷なシステムが、組み合わせ抽選(ドロー)です。多くの国際大会やカップ戦で採用されている「シード制」が、FAカップでは原則として存在しません(参加ラウンドの違いはありますが、対戦相手の決定においては無作為です)。
これを「オープン・ドロー」と呼びます。例えば、テニスのグランドスラム大会では、ランキング1位と2位の選手は決勝まで当たらないようにドローが組まれます。しかし、FAカップではその配慮が一切ありません。このシステムにより、大会の早い段階(例えば3回戦)で、マンチェスター・シティとアーセナルといった優勝候補同士が潰し合うこともあれば、逆に9部リーグのアマチュアチームがプレミアリーグのスター軍団をホームスタジアムに迎えるという夢のようなマッチメイクが実現することもあります。
この予測不可能性こそが、FAカップを世界で最もエキサイティングなカップ戦にしている要因です 。ドローの瞬間は全英が生中継で見守り、小さなクラブの会長やファンは、ビッグクラブとの対戦が決まった瞬間に歓喜の声を上げます。なぜなら、その一戦がクラブの財政を潤し、街の歴史を変えるからです。
1.3 参加資格とピラミッド構造:700以上のクラブが目指す頂点
2025-26シーズンには、約747チームが参加しています 。この数字は、イングランドフットボールの裾野の広さを物語っています。参加資格は、プレミアリーグ(1部)から、ナショナルリーグ・システムの下部組織(9部・10部相当)まで、非常に広範囲に及びます。
この大会の構造は、イングランドフットボールの「ピラミッド」をそのまま反映しています。
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1部(プレミアリーグ): 世界最高峰のプロリーグ(20チーム)。3回戦から登場。
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2部(チャンピオンシップ)〜4部(リーグ2): プロフェッショナルクラブ(72チーム)。3部・4部は1回戦から、2部は3回戦から登場。
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5部(ナショナルリーグ)以下: 「ノンリーグ」と呼ばれるセミプロ・アマチュアクラブ。予選ラウンドからスタート。
予選ラウンドは8月から始まり、何百もの「草サッカー」レベルのクラブが、本戦(コンペティション・プロパー)への出場権をかけて戦います。彼らにとっての「決勝戦」は、ウェンブリーではなく、プロクラブが登場する「本戦1回戦」に進出することです。そして、1月に始まる3回戦(Third Round Proper)から、いよいよプレミアリーグのクラブが登場し、大会は最高潮の盛り上がりを見せます 。この時期になると、イングランド中の話題は「どの小さなクラブが巨人を倒すか」という一点に集中します。
2. 2025-2026シーズンの最新情報と日程:波乱の展開
現在進行形である2025-26シーズンは、いくつかの重要な変更と衝撃的な結果とともに進んでいます。本稿執筆時点(2026年1月26日)での最新情報を整理し、今シーズンの特徴を浮き彫りにします。
2.1 今シーズンの見どころと現状(2026年1月時点)
2026年1月10日を中心に行われた3回戦(Third Round)では、今年もまた歴史に残るドラマが生まれました。FAカップの「魔法」は健在であり、世界中のサッカーファンを驚愕させる結果がもたらされました。
特筆すべきは、前回王者(2024-25シーズン優勝)のクリスタル・パレスが、なんとノンリーグ(6部相当)のマクルズフィールドFCに敗れるという大波乱が起きたことです 。
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衝撃の結果: マクルズフィールド 2-1 クリスタル・パレス(2026年1月9日)
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背景と文脈: クリスタル・パレスは2025年の決勝でマンチェスター・シティを1-0で下し、クラブ史上初のメジャータイトルを獲得したばかりでした 。オリヴァー・グラスナー監督の下、堅守速攻を武器に栄冠を掴んだ彼らは、ディフェンディングチャンピオンとして今大会に臨みました。しかし、3回戦で姿を消すことになりました。しかも、相手はプロリーグ(4部以上)ですらない、6部のマクルズフィールドでした。
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「マクルズフィールドの奇跡」: マクルズフィールドFCは、かつて破産して消滅したマクルズフィールド・タウンFCの魂を受け継ぎ、不死鳥のように蘇ったクラブです。モス・ローズ・スタジアム(Moss Rose)で行われたこの一戦は、FAカップの歴史における最大の番狂わせの一つとして、永遠に語り継がれることになるでしょう。
このほか、強豪のリヴァプールやアーセナル、マンチェスター・シティなどは順当に勝ち進んでおり、2026年2月14日の週末には4回戦(Fourth Round)が予定されています。注目カードとしては、サウサンプトン vs レスター・シティ、アストン・ヴィラ vs ニューカッスル・ユナイテッドなどのプレミアリーグ勢対決が控えています 。
2.2 大会日程カレンダー(2025-26)
今シーズンの主要日程は以下の通りです。特に決勝戦が5月中旬に設定されている点が重要です 。日程の進行とともに、賞金も跳ね上がっていきます。
| ラウンド | 主要開催日(土曜日中心) | 概要と参加クラブの動き |
| 予備予選 (Extra Preliminary) | 2025年8月2日 | アマチュアクラブの戦いが開幕。まだ夏の日差しの中で夢への挑戦が始まる。 |
| 予選ラウンド (Qualifying) | 2025年8月〜10月 | 予備予選から予選4回戦まで。ノンリーグのクラブが本戦出場枠(32枠)を争う。 |
| 本戦1回戦 (First Round Proper) | 2025年11月1日 |
ここからが「本戦」。3部(リーグ1)・4部(リーグ2)のプロ48クラブが登場 。 |
| 本戦2回戦 (Second Round Proper) | 2025年12月6日 | 1回戦を勝ち抜いたクラブ同士の対戦。まだプレミア勢は不在。 |
| 本戦3回戦 (Third Round Proper) | 2026年1月10日 |
プレミアリーグ(20クラブ)・2部(24クラブ)が登場。最も注目度が高いラウンド 。 |
| 本戦4回戦 (Fourth Round Proper) | 2026年2月14日 |
ベスト32による戦い。バレンタインデーの週末に行われる熱戦 。 |
| 本戦5回戦 (Fifth Round Proper) | 2026年3月7日 |
ベスト16(ラウンド16)。ここを抜ければ準々決勝 。 |
| 準々決勝 (Quarter-finals) | 2026年4月4日 |
ベスト8。ウェンブリーが見えてくる 。 |
| 準決勝 (Semi-finals) | 2026年4月25日 |
聖地ウェンブリー・スタジアム開催。ここから中立地開催となる 。 |
| 決勝 (Final) | 2026年5月16日 |
聖地ウェンブリー・スタジアム開催。シーズンのクライマックス 。 |
今シーズンは、UEFA大会(チャンピオンズリーグ等)の拡大に伴う過密日程を考慮し、本戦1回戦以降の「再試合(リプレイ)」が廃止されています。これはFAカップの歴史における非常に大きな変更点であり、議論を呼んでいます(詳細は後述のルールセクションで解説します)。
2.3 テレビ放送・配信の状況(2025-26シーズン)
日本のファンにとって、今シーズンのFAカップ視聴環境は非常に良好です。 U-NEXTが、プレミアリーグ全試合に加えて、FAカップの独占配信権も保有しています 。
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DAZNからの移行: 以前はDAZNがFAカップの権利を持っていましたが、2024-25シーズンからの7年契約により、イングランドサッカーの主要コンテンツはU-NEXTに集約されました。
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視聴可能範囲: 本戦1回戦以降の注目試合から配信され、3回戦以降は主要な試合が網羅されます。特に、日本代表選手(三笘薫、冨安健洋、遠藤航、鎌田大地など)が所属するクラブの試合は確実に配信される傾向にあります。
3. プレミアリーグとの決定的な違い:二つの異なる頂
サッカーに詳しくない方の中には、「プレミアリーグとFAカップ、何が違うの?」「なぜシーズン中に二つの大会があるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。両者は全く異なる性質を持つ大会であり、それぞれの価値、歴史、そして求められる能力が異なります 。
3.1 リーグ戦 vs ノックアウト方式
最も根本的な違いは、優勝を決めるフォーマット、すなわち「戦いのルール」です。
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プレミアリーグ(リーグ戦):
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形式: 総当たり戦。20チームがホーム&アウェイで計38試合を戦う。
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勝敗決定: 勝ち点制(勝3、分1、負0)。
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求められるもの: 「継続性」と「総合力」。8月から5月までの長期間にわたり、怪我人や不調の時期を乗り越え、安定して勝ち点を積み上げる必要があります。
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価値: プレミアリーグの優勝は「実力世界一」の証明と言えます。38試合という長丁場では、運だけで優勝することは不可能です。
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FAカップ(トーナメント戦):
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形式: ノックアウト(勝ち抜き)方式。
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勝敗決定: 一発勝負(現在は再試合なし)。負ければその時点で即敗退。
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求められるもの: 「瞬発力」と「勝負強さ」、そして「運」。どんなに強いチームでも、その日たまたまコンディションが悪かったり、不運な判定があったりすれば負ける可能性があります。逆に言えば、弱小チームでも「90分間だけ」なら奇跡を起こせるのです。
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価値: FAカップの優勝は「伝統への敬意」と「ロマン」の象徴です。一発勝負のプレッシャーに打ち勝つ精神力が試されます 。
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3.2 参加クラブの範囲と「階級闘争」
プレミアリーグは、選ばれしトップ20クラブのみによる閉ざされたエリートの戦いです。昇格・降格はありますが、基本的にはプロフェッショナル同士の戦いです。
対してFAカップは、前述の通り700以上のクラブに門戸が開かれています。
FAカップでは、普段は学校の教師、工場の作業員、配管工として働いているセミプロやアマチュアの選手たちが、週給数千万円を稼ぐ世界的なスター選手と同じピッチで対戦する機会があります。これはプレミアリーグでは絶対にあり得ない光景です。この「階級闘争」的な側面が、FAカップに独特の熱気を生み出します。労働者階級のクラブが富裕層のクラブを倒すという構図は、英国スポーツ文化の根底にある判官贔屓(アンダードッグを応援する心理)を刺激するのです。
3.3 欧州カップ戦への出場権(CLとEL)
優勝した場合の特典、つまり「次への切符」も異なります。
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プレミアリーグ: 上位4チームに、世界最高峰の大会「UEFAチャンピオンズリーグ(CL)」の出場権が与えられます 。これはクラブにとって莫大な放映権収入と世界的なブランド向上を意味します。経営的な視点では、FAカップ優勝よりも「プレミアリーグ4位以内」の方が重要視されることもあります。
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FAカップ: 優勝チームには、「UEFAヨーロッパリーグ(EL)」の出場権が与えられます 。ELはCLの一つ下のカテゴリーですが、それでも欧州の舞台で戦えることは大きな名誉であり、中堅クラブにとっては最大の目標となります。
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注釈: もしFAカップ優勝チームが、プレミアリーグの順位ですでにCL出場権(またはEL出場権)を獲得している場合、FAカップ枠のEL出場権は準優勝チームではなく、プレミアリーグの順位が上の未出場クラブ(通常は6位や7位)に繰り下げられます 。このルールにより、リーグ戦の終盤における順位争いがより複雑で面白いものになります。
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4. 驚愕の賞金事情:夢を掴むクラブたち
FAカップには「ドリーム」があります。その一端を担うのが賞金です。2025-26シーズンの賞金総額は非常に高額で、特に下部リーグのクラブにとっては、クラブの存続を左右するほどの金額になります。
4.1 2025-26シーズン 男子FAカップ賞金内訳
以下は、各ラウンドの勝者に支払われる賞金のリストです。これらは「勝利ボーナス」であり、これに加えて放映権料やチケット収入が入ります 。
| ラウンド | 勝利クラブ賞金 | 敗退クラブ賞金 | 備考 |
| 予備予選 (Extra Preliminary) | £1,125 | £375 | アマチュアレベルの資金源 |
| 予選ラウンド (Preliminary) | £1,444 | £481 | |
| 予選1回戦 (1st Qualifying) | £2,250 | £750 | |
| 予選4回戦 (4th Qualifying) | £9,375 | £3,125 | 本戦出場決定戦。勝てばプロへの挑戦権 |
| 本戦1回戦 (First Round) | £45,000 | £15,000 | ここから賞金桁が変わる |
| 本戦2回戦 (Second Round) | £75,000 | £20,000 | |
| 本戦3回戦 (Third Round) | £115,000 | £25,000 | PL勢登場。敗れても25,000ポンド支給 |
| 本戦4回戦 (Fourth Round) | £120,000 | – | |
| 本戦5回戦 (Fifth Round) | £225,000 | – | |
| 準々決勝 (Quarter-finals) | £450,000 | – | |
| 準決勝 (Semi-finals) | £1,000,000 | £500,000 | ベスト4入りで100万ポンド確保 |
| 準優勝 (Final Runner-up) | £1,000,000 | – | |
| 優勝 (Final Winner) | £2,000,000 | – | 約3億8000万円(1£=190円換算) |
優勝賞金は200万ポンド(約3.8億円)ですが、これはあくまで「決勝戦の勝利ボーナス」です。優勝するまでに勝ち上がった各ラウンドの賞金を累積すると、総額は約390万ポンド(約7.4億円)に達します 。これはマンチェスター・シティのようなクラブにとっては選手の週給数人分かもしれませんが、リーグ1(3部)以下のクラブにとっては年間予算に匹敵する巨額です。
4.2 女子FAカップ(Adobe Women’s FA Cup)の賞金急増
近年、女子サッカーの人気高騰に伴い、女子FAカップの賞金も劇的に増額されています。女子サッカーへの投資は世界的なトレンドであり、FAも力を入れています。2025-26シーズンの賞金は以下の通りです 。
| ラウンド | 勝利クラブ賞金 | 敗退クラブ賞金 |
| 本戦1回戦 | £6,000 | £1,500 |
| 本戦3回戦 | £35,000 | £9,000 |
| 準々決勝 | £90,000 | £22,500 |
| 準決勝 | £160,000 | £40,000 |
| 決勝 | £430,000 | £108,000 |
決勝の優勝賞金は43万ポンド(約8,170万円)。男子に比べればまだ差はありますが、数年前と比較すれば数倍の規模になっており、女子プロクラブの運営を強力にサポートしています。
4.3 下部リーグクラブにとっての「救世主」:ゲート収入と放映権
賞金以上に重要なのが、「分配金」と「放映権料」です。 FAカップの規定では、チケット収入(ゲート収入)はホームとアウェイで45%ずつ折半されます(残り10%はFAへ)。これが「FAカップ・ドリーム」の正体です。
具体的なシミュレーション: 例えば、4部リーグ(リーグ2)のクラブが3回戦の抽選でマンチェスター・ユナイテッドを引き当てたとします。試合会場が7万4千人収容のオールド・トラッフォードになった場合、チケットが完売すれば数億円規模の売上が立ちます。その45%が、4部クラブの懐に入ります。 このたった1試合の収入が、小さなクラブの借金を完済させ、新しいスタンドを建設し、練習場の芝を張り替え、向こう数年間の運営費を賄うことになります。まさに「トレジャーハンティング」です。 さらに、試合がテレビ中継されれば、1試合あたり10万ポンド単位の放映権料が追加で支払われます。FAカップでの躍進は、文字通りクラブの経営を救うのです 。
5. ルールとフォーマット:伝統と現代の融合
伝統を重んじるFAカップですが、時代の流れに合わせて大きなルール変更が行われました。特に2024-25シーズンからの変更は、大会のあり方を揺るがす重要なものです。
5.1 「再試合(リプレイ)」の完全廃止論争
かつてFAカップでは、90分で決着がつかなかった場合、後日対戦相手のホームで「再試合(リプレイ)」を行うのが伝統でした。これは下部リーグのチームにとって、ビッグクラブのホームでもう一度試合をして収入を得る「ボーナス」のチャンスでもありました。歴史的には、格下チームがホームで粘って引き分けに持ち込み、再試合のゲート収入で潤うというのが「成功モデル」でした。
しかし、2024-25シーズンから、本戦1回戦(First Round Proper)以降のすべてのラウンドで再試合が廃止されました 。
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FAとプレミアリーグの主張: UEFAチャンピオンズリーグなどの欧州大会が拡大し、試合数が増加したことによる日程の過密化を解消するため 。選手の健康を守るためには試合数を減らす必要があるという論理です。
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下部リーグからの批判: 再試合による興行収入を期待していた下部リーグのクラブからは、「富めるクラブのための変更だ」「FAカップの精神を殺すものだ」として猛烈な批判の声が上がっています 。彼らにとってリプレイは、単なる試合ではなく、生き残るためのライフラインだったからです。
5.2 決着方法:延長戦とPK戦
再試合がなくなったため、90分で同点の場合は以下の手順で即日決着をつけます 。
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延長戦(Extra Time): 前後半15分ずつ、計30分を行う。ゴールデンゴール方式(Vゴール)ではなく、必ず30分間戦います。
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PK戦(Penalty Shootout): 延長戦でも決着がつかない場合に行う。5人ずつのキッカーによる勝負。
5.3 VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の不均衡
現代サッカーにおいて当たり前となったVARですが、FAカップでは独特の運用がなされています。 「プレミアリーグのクラブのホームスタジアムで開催される試合」でのみVARが使用されます 。 理由はシンプルで、下部リーグのスタジアムにはVARの機材や設備がないからです。
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公平性の問題: これにより、同じ大会の同じラウンドの中で「VARがある試合」と「ない試合」が混在することになります。例えば、マンチェスター・シティのホームゲームではミリ単位のオフサイド判定が行われますが、ノンリーグのホームゲームでは副審の目視判定が全てです。
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ドラマの要因: しかし、この「VAR不在」が、ジャイアントキリングを後押しすることもあります。微妙な判定が格下チームに有利に働くなど、人間臭いドラマが生まれる余地が残されているとも言えます 。
5.4 カップ・タイド(Cup-tied)ルールの緩和
以前は、あるシーズンにAチームでFAカップに出場した選手は、シーズン中にBチームへ移籍しても、そのシーズンはFAカップに出場できませんでした(これを「カップ・タイド」と呼びます)。 しかし、現在はルールが緩和され、予選ラウンドまでに出場した選手であれば、本戦から別のクラブで出場することが可能になるなど、柔軟な運用がなされています。ただし、本戦出場後に移籍した場合は、依然として新天地での出場が制限される場合があります 。このルール確認は、冬の移籍市場(1月)での補強戦略において非常に重要です。
6. 伝説のジャイアントキリング:歴史に残る番狂わせの解剖
FAカップの代名詞とも言えるのが「ジャイアントキリング(Giant Killing)」、すなわち大物食いです。何十億もの戦力差がある格下チームが、戦術と闘志、そしてスタジアムの雰囲気を味方につけて勝利をもぎ取る瞬間は、サッカーにおける最高のエクスタシーです。
6.1 なぜ番狂わせは起きるのか?:構造的要因
データや戦力では説明できない要素が絡み合います 。
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環境の激変(アウェイの洗礼): プレミアリーグの選手は、カーペットのように完璧に整備されたピッチに慣れています。しかし、下部リーグのスタジアムはピッチが凸凹だったり、傾斜があったり、泥だらけだったりします。ボールが不規則に弾むピッチでは、テクニックの差が埋まりやすくなります。
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距離感と圧迫感: 小さなスタジアムでは、観客席とピッチの距離が極端に近く、相手サポーターの野次や怒号がダイレクトに選手の耳に届きます。ドレッシングルームも狭く、シャワーが冷たいこともあります。こうした「居心地の悪さ」が、エリート選手たちのリズムを狂わせます。
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モチベーションの非対称性: 下部チームにとって、プレミア勢との対戦は「一生に一度の晴れ舞台」。文字通り人生を懸けて挑んできます。一方、プレミア勢は過密日程の中で主力を温存(ターンオーバー)することが多く、「怪我をしたくない」「勝って当たり前」というメンタリティになりがちです。このわずかな心理的な隙を、格下チームは絶対に見逃しません。
6.2 近年の衝撃的なジャイアントキリング事例詳報
【2026年】マクルズフィールド 2-1 クリスタル・パレス
日付: 2026年1月10日 概要: 前述の通り、ノンリーグ(6部相当)のマクルズフィールドが、ディフェンディングチャンピオンのクリスタル・パレスを撃破。 詳細: パレスはイングランド代表DFマルク・グエイなどを擁していましたが、マクルズフィールドのモス・ローズ・スタジアムの異様な熱気に飲み込まれました。この敗北は、FAカップにおいて「昨年の王者が翌年これほど早く、これほど格下の相手に負けた」例として記録的なものとなりました 。
【2024年】メイドストーン・ユナイテッド 2-1 イプスウィッチ・タウン
日付: 2024年1月27日 概要: ナショナルリーグ・サウス(6部)のメイドストーンが、当時チャンピオンシップ(2部)でプレミア昇格争いをしていた強豪イプスウィッチをアウェイ(ポートマン・ロード)で破りました。 戦術的奇跡: スタッツ(試合データ)を見れば、イプスウィッチがシュート38本、ボール支配率約80%と圧倒していました。対するメイドストーンのシュートはわずか2本。しかし、その2本が両方ともゴールネットを揺らしました。GKルーカス・コボランが神懸かり的なセーブを連発し、耐えに耐えて掴んだ勝利でした。6部以下のクラブが5回戦(ベスト16)に進出するのは、1978年以来46年ぶりの快挙でした 。
【2017年】リンカーン・シティ 1-0 バーンリー
日付: 2017年2月18日 概要: 当時ノンリーグ(5部)のリンカーン・シティが、プレミアリーグのバーンリーをアウェイ(ターフ・ムーア)で撃破。 詳細: 試合終了間際の89分、CKからショーン・ラゲットがヘディングで決勝点を奪取。このゴールが決まった瞬間、アウェイスタンドは狂乱状態となりました。ノンリーグのチームが準々決勝(ベスト8)に進出するのは、1914年以来、実に103年ぶりの歴史的偉業でした 。その後、リンカーンはアーセナルと対戦し敗れましたが、この快進撃で得た資金をもとに練習場を整備し、リーグ戦でも昇格を果たすなど、クラブの運命を大きく変えました。
【2013年】ウィガン・アスレティック 1-0 マンチェスター・シティ(決勝戦)
日付: 2013年5月11日 概要: 決勝戦でのジャイアントキリング。当時、巨額資金でスター軍団を形成していたマンチェスター・シティに対し、プレミアリーグで降格圏をさまよっていたウィガンが挑みました。 ドラマ: 下馬評は圧倒的にシティ有利でしたが、ロベルト・マルティネス監督率いるウィガンは勇敢にパスサッカーを展開。終了間際の後半アディショナルタイム、ベン・ワトソンがヘディングゴールを決め、ウィガンがクラブ史上初のタイトルを獲得しました。しかし、その3日後にウィガンはリーグ戦で敗れて2部降格が決定。「FAカップを優勝して降格した史上初のクラブ」となりました。栄光と悲哀が同時に訪れる、FAカップらしいエピソードです 。
6.3 「魔法」の象徴:ヘレフォード・ユナイテッド
ヘレフォード・ユナイテッド 2-1 ニューカッスル(1972年): FAカップの歴史を語る上で欠かせないのがこの試合です。ノンリーグのヘレフォードが1部ニューカッスルを破ったこの試合で、ロニー・ラドフォードが決めたロングシュートは、泥だらけのピッチ、観客の乱入、そして実況の絶叫とともに、FAカップの「魔法」を象徴するシーンとして、今でもBBCのオープニング映像などで使われ続けています 。
7. 歴代優勝クラブと記録:名門の系譜
FAカップのトロフィーには、イングランドサッカーの歴史が刻まれています。
7.1 最多優勝クラブ(2025年時点)
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アーセナル:14回(最新:2020年)
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アーセナルはFAカップにおいて圧倒的な強さを誇り、「カップ・キング」とも呼ばれます。アーセン・ベンゲル監督時代だけで7回の優勝を果たしました。
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マンチェスター・ユナイテッド:13回(最新:2024年)
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常にアーセナルと覇権を争ってきました。
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チェルシー:8回(最新:2018年)
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2000年代以降、急速に優勝回数を伸ばしました。
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リヴァプール:8回(最新:2022年)
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トッテナム・ホットスパー:8回(最新:1991年)
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かつてはカップ戦に強いチームでしたが、近年はタイトルから遠ざかっています。
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マンチェスター・シティ:7回
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アストン・ヴィラ:7回
7.2 直近の優勝クラブ一覧
| シーズン | 優勝 | 準優勝 | 備考 |
| 2024-25 | クリスタル・パレス | マンチェスター・シティ |
クラブ史上初優勝。歴史を変えた一戦 |
| 2023-24 | マンチェスター・ユナイテッド | マンチェスター・シティ | 「マンチェスター・ダービー」決勝 |
| 2022-23 | マンチェスター・シティ | マンチェスター・ユナイテッド | シティが「トレブル(3冠)」を達成した年 |
| 2021-22 | リヴァプール | チェルシー | PK戦での決着 |
| 2020-21 | レスター・シティ | チェルシー | クラブ史上初優勝。ユーリ・ティレマンスのミドル弾 |
2025年のクリスタル・パレスの初優勝は記憶に新しいところです。決勝で当時世界最強と言われたマンチェスター・シティを1-0で破る快挙でしたが、翌シーズン(2025-26)には3回戦で敗退するという浮き沈みの激しさもまた、FAカップの魅力です 。
8. 日本からの視聴方法(2025-26シーズン):U-NEXT一強時代へ
日本のサッカーファンにとって、FAカップの視聴環境は近年大きく変化しました。2025-26シーズンにおける最新の視聴方法を解説します。
8.1 U-NEXTによる独占配信
かつてはDAZNやスカパー!が放映権を持っていましたが、現在はU-NEXTがイングランドサッカーの「本拠地」となっています。
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権利内容: U-NEXTはプレミアリーグ全試合に加え、FAカップ(The Emirates FA Cup)の日本国内における独占配信権を獲得しています 。
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契約期間: 2024-25シーズンから7年間の大型契約を結んでおり、長期間にわたって安定した視聴が可能です。これは日本の海外サッカー放送史上でも稀に見る長期契約です 。
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視聴範囲: 1回戦以降の注目試合から、決勝戦までをライブ配信しています。特に3回戦以降のプレミアリーグ勢が登場する試合は網羅的に配信される傾向にあります。見逃し配信(アーカイブ)も充実しており、深夜の試合でも翌朝にチェック可能です。
8.2 その他の視聴手段
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DAZN: 2025-26シーズンにおいては、男子FAカップの放映権はU-NEXTに移行しているため、DAZNでの視聴はできません(女子FAカップや、他国のカップ戦は別契約の可能性がありますが、男子FAカップ本戦はU-NEXT一択となります)。
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SPOTV NOW: 2024-25シーズンより前はプレミアリーグの権利を持っていましたが、現在はU-NEXTに移っています。
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無料放送: 地上波での放送は基本的にありません。
したがって、日本でFAカップとプレミアリーグの両方を追いかけるなら、U-NEXTへの加入(「サッカーパック」などのプラン)が必須となります。イングランドサッカーファンにとっては、一つのサービスでリーグ戦もカップ戦も見られるため、利便性は向上しています。
9. 結論:FAカップこそが「フットボール」である
FAカップは、単に「強いチームが決まる」だけの大会ではありません。
そこには、地域社会とクラブの絆、経営難に苦しむ下部クラブの起死回生の物語、そして「何が起こるかわからない」というスポーツ本来のスリルが凝縮されています。
2025-26シーズンは、再試合の廃止という大きな変革を迎え、賛否両論が渦巻く中での開催となりました。しかし、マクルズフィールドがクリスタル・パレスを破ったように、「ジャイアントキリング」の精神は少しも失われていません。賞金がクラブを救い、勝利が街を熱狂させる。150年以上続くこのサイクルの目撃者になれることこそ、FAカップを観る最大の喜びです。
現在進行中の2025-26シーズン、果たしてどのクラブが5月のウェンブリーでカップを掲げるのか。あるいは、さらなる番狂わせが世界を驚かせるのか。U-NEXTの画面越しに、その歴史的瞬間を見届けましょう。FAカップには、サッカーのすべてがあります。
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