アディショナルタイムとは?サッカーにおける運命の数分間を徹底解剖
サッカーのアディショナルタイムとは?定義とロスタイムとの違い
サッカーというスポーツにおいて、90分間の戦いの最後に訪れる「アディショナルタイム」は、勝敗を決定づける最も劇的で、時に残酷な時間帯です。多くのファンが抱く疑問、すなわち「一体どのように時間が決まっているのか」「なぜあんなに長いのか」という点について、競技規則の歴史や最新のデータを交えて、極限まで詳細に解説します。
「アディショナルタイム」の正確な意味と定義
アディショナルタイム(Additional Time)とは、サッカーの試合において、前後半それぞれの規定時間(通常は45分ずつ)の間に、競技規則で定められた理由によって「空費された」時間を、各ハーフの終了後に追加する時間のことを指します。
日本サッカー協会(JFA)および国際サッカー評議会(IFAB)の定義に基づくと、これは単なる試合の延長ではありません。試合中に時計が止まることのないサッカーにおいて、プレーが実際に行われていない時間を補填し、両チームに公平なプレー時間を保証するための「正当な権利としての時間」と定義できます。
なぜ「ロスタイム」と呼ばれなくなったのか?
かつて日本では、この時間を「ロスタイム(Loss Time)」と呼ぶのが一般的でした。しかし、2010年頃を境に「アディショナルタイム」という呼称へ統一されています。この変更には、単なる言葉の流行以上の、サッカー界全体の哲学的な転換が含まれています。
| 比較項目 | ロスタイム (Loss Time) | アディショナルタイム (Additional Time) |
| 直訳 | 失われた時間 | 加えられた時間 |
| 計算の概念 | 90分から失われた時間を差し引いて考える(引き算の思考) | 規定の90分に新たな時間をプラスする(足し算の思考) |
| ニュアンス | 「無駄になった」「消えた」というネガティブな印象 | 「チャンスが増える」「ドラマが続く」というポジティブな印象 |
| 変更の契機 | 2010年にJFA審判委員会が呼称変更を決定 | 国際的な基準(FIFA)への統一とイメージ向上 |
このように、「失われた時間」を嘆くのではなく、「加えられた時間」をどう有効に使うかという前向きなマインドセットへの切り替えが意図されています。これは、かつて「サドンデス(突然死)」と呼ばれていた延長戦のルールが「Vゴール(ビクトリーゴール)」や「ゴールデンゴール」と言い換えられた流れと同様に、スポーツとしての魅力を高めるための言語戦略の一つと言えます。
アディショナルタイムの決定権は誰にあるのか
試合時間を管理し、アディショナルタイムを決定する絶対的な権限は、その試合の**主審(レフェリー)**のみが持っています。
タイムキーパーが別に存在するバスケットボールやアメリカンフットボールとは異なり、サッカーでは主審が「生きた時間」と「死んだ時間」を判断し、自身の腕時計で計測を行います。第4の審判員が掲示ボードで時間を表示しますが、これはあくまで主審から伝えられた数字を表示しているに過ぎません。
主審は、以下のプロセスで時間を管理しています。
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計測: 試合中、プレーが中断するたびに、その原因が「空費された時間」に該当するかを判断し、手元の時計で計測を累積していきます。
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伝達: 前半・後半それぞれの45分が終了する直前に、無線マイクなどを通じて第4の審判員へ「追加すべき分数」を伝えます。
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表示: 第4の審判員は、ピッチサイドで電光掲示板(アディショナルタイムボード)を掲げ、スタジアム全体にその時間を周知します。
ここで重要となるのが、掲示板に表示される数字の意味です。これは「最小限の追加時間」を示しています。つまり、「3分」と表示された場合、それは「あと3分で試合が終わる」という意味ではなく、「最低でも3分間は試合を続ける」という宣言です。したがって、アディショナルタイム中にさらに怪我人の治療や遅延行為が発生した場合、主審は表示された時間を超えて試合を延長することができます。逆に、表示された時間を短縮して試合を終わらせることは、ルール上認められていません。
アディショナルタイムの計算方法と対象となる時間
アディショナルタイムは、主審の感覚や「なんとなくの雰囲気」で決められているわけではありません。国際サッカー評議会(IFAB)が定める競技規則第7条に基づき、厳格な計算式によって算出されています。具体的にどのような行為が計算の対象となるのか、詳細に掘り下げていきます。
計算に含まれる具体的な「空費された時間」
ルール上、以下の事象によってプレーが止まっている時間は、すべてアディショナルタイムとして加算されなければなりません。
- 競技者の交代(Substitutions):選手がピッチを去り、交代選手が入ってくるまでの一連の時間です。以前は1回の交代につき30秒程度と見積もられていましたが、戦術的な指示やキャプテンマークの受け渡しなどで長引くことが多く、現在はより実測に近い時間が加算されます。
- 負傷者の対応(Assessment and removal of injured players):選手が倒れ込み、主審がプレーを止めてから、負傷の程度を確認し、治療を行うかピッチ外へ搬出されるまでの全時間です。特に頭部への衝撃(脳震盪の疑い)がある場合は、選手の安全を最優先するため、数分単位の長い中断が取られます。
- 時間の浪費(Wasting time):リードしているチームの選手が、フリーキックやスローインの再開を故意に遅らせる行為です。これに対して主審は、時間を計測して追加するだけでなく、イエローカード(遅延行為)を提示することもあります。
- 懲戒の罰則(Disciplinary sanctions):ファウルが発生し、主審がカードを提示したり、選手やベンチスタッフへの注意を行ったりしている時間です。退場処分などで揉めた場合、この時間は大幅に伸びます。
- 医療上の理由による停止(Medical stoppages):近年の猛暑対策として導入された「飲水タイム(1分以内)」や「クーリングブレイク(90秒〜3分)」が含まれます。これらは事前に大会規定で定められていますが、実施された場合はその分が確実にアディショナルタイムに乗せられます。
- VARの確認とレビュー(VAR checks and reviews):現代サッカーにおいてアディショナルタイムを長時間化させている最大の要因です。「VARによるチェック(交信)」と「オンフィールドレビュー(モニター確認)」に費やされた時間は、すべて秒単位で計測され、追加されます。
- 得点後の喜び(Goal celebrations):ゴールが決まった後の歓喜の時間です。選手がコーナーフラッグに集まったり、パフォーマンスを行ったりする時間は、相手チームにとっては「プレーできない時間」であるため、公平性の観点から加算対象となります。
- その他の外的要因(Any other cause):観客の乱入、照明設備の故障、ボールのパンク、動物の侵入など、試合進行を妨げるあらゆる予期せぬ中断が含まれます。
計算に含まれない「通常の時間」
一方で、以下のような通常プレーの一部とみなされる時間は、原則としてアディショナルタイムの計算には含まれません。
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ボールがタッチラインを割ってからスローインを行うまでの通常の準備時間。
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ゴールキックやコーナーキックの通常のセット時間。
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フリーキックの壁を作るまでの標準的な時間。
ただし、これらの準備時間が「著しく長い」と主審が判断した場合は、「時間の浪費」とみなされ、加算の対象となります。この線引きは主審の裁量(マネジメント能力)に委ねられています。
プレミアリーグに見る最新の計算トレンド:「30秒ルール」
イングランドのプレミアリーグでは、2024-25シーズンから新たな運用指針が導入されました。これは、アディショナルタイムの計算をより適正化するための試みです。
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得点後の30秒免除: ゴールが決まってからキックオフまでの時間は、選手が定位置に戻るための「自然な時間」として、最初の30秒間はアディショナルタイムにカウントしません。
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30秒超過分の加算: もしゴールセレブレーションなどが30秒を超えて続いた場合、その超過分のみをアディショナルタイムに加算します。
このルール変更の背景には、2023-24シーズンに試合時間が平均101分を超え、選手の負担が増大したことへの反省があります。このように、計算方法はリーグや大会の方針によって微調整が続けられています。
歴史で紐解くアディショナルタイムの変遷
アディショナルタイムの扱いは、サッカーの歴史とともに大きく変化してきました。かつては「審判の腹時計」と言われるほど曖昧だったものが、現在では秒単位の厳密な管理へと進化しています。
1990年代以前:ブラックボックスだった「ロスタイム」
Jリーグが開幕した1993年頃を含め、1990年代までアディショナルタイムは「観客には見えない時間」でした。スタジアムの時計は45分で止まり、その後どれくらい試合が続くのかを知っているのは主審だけでした。
当時の平均的な追加時間は2〜3分程度と非常に短く、主審が試合の流れを見て「そろそろ終わらせよう」と判断するケースも少なくありませんでした。南米などでは、主審が指を立てて「あと2分」と選手に伝えるジェスチャーがありましたが、公式な表示システムは存在しませんでした。
1998年フランスW杯:アディショナルタイム表示の始まり
歴史が動いたのは、1998年のFIFAワールドカップ・フランス大会です。この大会で初めて、第4の審判員が電光掲示板を使ってアディショナルタイムの分数を表示するシステムが導入されました。
これにより、以下の劇的な変化が生まれました。
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情報の可視化: 観客と選手、ベンチスタッフが「あと何分あるか」を共有できるようになりました。
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戦術の変化: 「あと3分あるならパワープレーに出よう」「あと1分ならコーナーで時間を稼ごう」といった、より緻密な終盤の駆け引きが可能になりました。
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ドラマの演出: スタジアム全体がカウントダウンのような高揚感に包まれるようになり、エンターテインメントとしての価値が向上しました。
2022年カタールW杯:長時間化へのパラダイムシフト
アディショナルタイムの概念を根底から覆したのが、2022年のカタールワールドカップです。FIFAはこの大会で「アクチュアル・プレーイング・タイム(実質のプレー時間)の最大化」を最重要課題に掲げました。
それまでは、交代や怪我で時間が止まっても、主審の裁量で「まあ大体3分くらい」と丸められる傾向がありました。しかし、カタール大会ではこれらを秒単位で厳密に計測し、すべて足し合わせる運用が徹底されました。その結果、以下のような現象が起きました 6。
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平均時間の大幅増: 従来のアディショナルタイム(4〜5分)に対し、カタール大会では平均で10分以上、時には前後半合わせて20分近くが追加されるようになりました。
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史上最長のグループステージ: イングランド対イラン戦では、イラン代表GKの脳震盪対応などがあり、前半だけで14分、試合全体で27分以上のアディショナルタイムが記録されました。
この「カタール・スタンダード」は、その後の各国のリーグ戦や国際大会にも波及し、「サッカーの試合は90分では終わらない(100分を超えるのが当たり前)」という新しい常識を作り上げました。
アディショナルタイムの最長記録
世界には、常識を逸脱するようなアディショナルタイムの記録が存在します。
| 試合 | 追加時間 | 理由 |
| ボリビア国内リーグ | 42分 |
主審の判断(詳細な理由は論争となったが、豪雨や中断などの複合要因とされる非公式記録) |
| W杯予選 イランvsUAE | 29分 |
前半に照明トラブルが発生し、試合が長時間中断したため |
| カタールW杯 イングランドvsイラン | 27分 |
負傷治療(脳震盪)、VAR、交代などの累積 |
これらの記録は、アディショナルタイムが単なる「おまけ」ではなく、試合成立のための「必須の時間」であることを物語っています。
日本人にとってのアディショナルタイム:「ドーハの悲劇」
日本のサッカーファンにとって、「ロスタイム」という言葉は特別な重みを持っています。その原点にあるのが、1993年の「ドーハの悲劇」です。この出来事は、アディショナルタイムの1分1秒が国全体の運命を変えてしまうことを痛烈に教えました。
1993年10月28日、運命のロスタイム
アメリカW杯アジア最終予選、日本対イラク戦。場所はカタールのドーハ。日本は2-1でリードし、悲願のワールドカップ初出場まであとわずかという状況でした。
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後半45分経過: 90分が終了し、試合はロスタイムに入りました。当時のロスタイムは短く、日本中の誰もが勝利を確信しかけていました。
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90分+1分: イラクがショートコーナーからクロスを上げ、ジャファル・オムラム選手がヘディングシュート。ボールは放物線を描いて日本のゴールに吸い込まれました。
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絶望と教訓: この同点ゴールにより、試合は2-2で終了。日本は得失点差でワールドカップ出場権を逃しました。テレビ解説をしていた松木安太郎氏の叫びや、ピッチに崩れ落ちる選手たちの姿は、アディショナルタイムの恐ろしさを日本人に刻み込みました。
興味深いことに、この同じ瞬間、韓国代表は「ドーハの奇跡」を体験していました。日本の引き分けにより、得失点差で韓国がワールドカップ出場を決めたのです。アディショナルタイムの1点は、ある国を地獄に突き落とし、隣国を天国へ導くほどの力を持っています。
アディショナルタイムの戦略と観戦のポイント
アディショナルタイムは、選手にとって肉体的・精神的な限界を超える時間帯です。この数分間をどう戦うかには、高度な戦略とメンタリティが要求されます。
なぜアディショナルタイムにドラマが起きるのか?
アディショナルタイムに得点が多く生まれる現象には、科学的・心理的な理由があります。
- 認知機能と判断力の低下:90分間の激しい運動により、脳への酸素供給や糖分が不足し、ディフェンダーの判断力が鈍ります。一瞬のマークのズレや、クリアミスの確率が格段に上がります。
- リスク管理の崩壊:負けているチームは「失点しても変わらない」という心理で、ゴールキーパーを含めた全員攻撃(パワープレー)を仕掛けます。これにより、ピッチ上のスペースが広がり、カウンターが決まりやすくなります。
- 「表示時間」の心理効果:「あと5分」と表示されることで、負けているチームには「5分あれば2点取れるかもしれない」という希望が生まれ、勝っているチームには「長い5分間を守りきらなければならない」というプレッシャーがかかります。
ジュニア世代に教えるアディショナルタイムのマインドセット
サカイクなどの育成メディアでは、子供たちに対してアディショナルタイムを以下のように指導しています 2。
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最後まで諦めない心の育成: 「笛が鳴るまで試合は終わらない」という精神論だけでなく、具体的な時間の使い方を教えます。
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セルフジャッジの禁止: 自分の中で「もう時間だ」と判断して足を止めることは厳禁です。主審が笛を吹くまで、プレーは続行しています。
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時間のコントロール: リードしている時は、相手陣地の深い位置(コーナーフラッグ付近)でボールをキープして時間を使い(通称「鹿島る」)、ビハインドの時はボールが外に出たら全力で取りに行ってリスタートを早めるなど、状況に応じた判断力を養います。
まとめ:アディショナルタイムは「おまけ」ではない
アディショナルタイムについて詳しく見てきましたが、これは決して試合の「余り時間」や「おまけ」ではありません。公平性を担保し、勝負の行方を左右する、試合の核心部分です。
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ルールの厳格化: 「ロスタイム」から「アディショナルタイム」へ変わり、VARや30秒ルールなど、計算方法は年々進化し、より公平で正確なものになっています。
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時間の重み: ドーハの悲劇やカタールW杯の事例が示すように、アディショナルタイムの長さやそこでの1プレーが、サッカーの歴史を塗り替えてきました。
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観戦の醍醐味: 第4審判がボードを掲げた瞬間、スタジアムの空気は一変します。その数字を見て、「なぜその時間なのか(怪我が多かったか、VARがあったか)」を推測し、そこから生まれる両チームの攻防を楽しむことは、サッカー観戦の醍醐味の一つです。
次にサッカーを見るときは、90分が過ぎた後の、主審の時計だけが知る「運命の時間」にぜひ注目してください。そこには、90分間には収まりきらなかった濃厚なドラマが凝縮されています。
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