ゲーゲンプレスとは?現代サッカーを席巻する「即時奪回」の哲学
現代サッカーの戦術トレンドを語る上で、もはや避けては通れない言葉、それが「ゲーゲンプレス」です。リヴァプールを率いたユルゲン・クロップ監督の代名詞として世界中に知れ渡り、多くのチームがその哲学を取り入れています。しかし、「ゲーゲンプレス」という言葉は知っていても、その本質を正確に理解している方は意外と少ないかもしれません。
「ボールを奪われたらすぐに奪い返しに行く、激しい守備のことでしょ?」
そのように考えているとしたら、それはゲーゲンプレスのほんの一面に過ぎません。実は、ゲーゲンプレスの真髄は守備ではなく、むしろ究極の攻撃哲学にあります。この記事では、ゲーゲンプレスの基本的な定義から、その核心である「5秒ルール」、名将たちが生み出した4つの流派、そして具体的な成功事例と弱点まで、あらゆる角度から徹底的に解説します。この記事を読み終える頃には、あなたのサッカー観戦は、これまでとは比較にならないほど深く、戦術的な面白さに満ちたものになるはずです。
1-1. ゲーゲンプレスの基本的な定義:ボールを失った瞬間が最大のチャンス
結論から申し上げますと、ゲーゲンプレスとは「ボールを失った(ネガティブトランジションの)瞬間に、チーム全体が連動して即座にプレッシャーをかけ、ボールを奪い返す」戦術思想です 1。ここまでは多くの方がご存知の定義でしょう。しかし、最も重要なのはその目的です。ゲーゲンプレスの目的は、単に守備を安定させるためではありません。その真の狙いは、「相手が最も無防備な瞬間にボールを奪い、最短距離でゴールを陥れる」ことにあります。
ユルゲン・クロップ監督はかつてこう語りました。「ゲーゲンプレスこそ、最高のプレーメイカーだ」と。この言葉が、ゲーゲンプレスの本質を完璧に表現しています。通常、ボールを奪った相手チームは、守備から攻撃へと意識を切り替えるため、陣形が整っておらず、選手たちの思考も攻撃に向いています 4。その一瞬の隙を突いて高い位置でボールを奪い返せば、相手の守備組織が再構築される前に、決定的なチャンスを生み出せるのです 5。
つまり、ゲーゲンプレスは守備と攻撃の境界線を曖昧にし、「ボールを失った瞬間」をピンチではなく「最大のチャンス」へと転換させる、極めて攻撃的な哲学なのです。守備のために走るのではなく、次のゴールを奪うために走る。この発想の転換こそが、ゲーゲンプレスを理解する上での第一歩となります。
1-2. 語源と歴史的背景:「反対のプレス」が生まれたわけ
「ゲーゲンプレス(Gegenpress)」という言葉の響きから、ドイツ発祥の戦術であることは想像がつくかもしれません。その語源を紐解くと、この戦術の性質がより明確になります。
「ゲーゲン(Gegen)」とは、ドイツ語で「~に対して」「反対の」「カウンター」といった意味を持つ単語です。つまり、ゲーゲンプレスは直訳すると「カウンタープレス」となります。これは、相手がボールを奪って仕掛けようとする「攻撃(前方へのプレス)」に対して、即座に「カウンター(反対のプレス)」を仕掛ける、という意味合いを持っています。相手の行動を予測し、そのアクションが始まる瞬間にそれを潰しにかかる、非常に能動的な守備と言えるでしょう。
この思想の原型は、1974年のワールドカップで世界に衝撃を与えたオランダ代表の「トータルフットボール」にも見られます。彼らが見せた、ポジションに縛られず選手たちが流動的に動き、ボールホルダーに襲いかかるプレッシングは、ゲーゲンプレスの源流の一つとされています。しかし、この戦術を現代的なシステムとして洗練させ、世界的な潮流へと押し上げたのは、間違いなくユルゲン・クロップ監督です。彼がボルシア・ドルトムントで絶対王者バイエルン・ミュンヘンを打ち破り、ブンデスリーガを連覇したことで、「ゲーゲンプレス」の名は一躍世界に轟きました。
1-3. なぜ現代サッカーで重要なのか?守備戦術から攻撃戦術への進化
なぜ今、これほどまでにゲーゲンプレスが重要視されるのでしょうか。その背景には、現代サッカーの戦術的な進化が深く関わっています。
現代のトップレベルのチームは、ゴールキーパーやディフェンダーから丁寧にパスを繋ぎ、組織的に攻撃を組み立てる「ビルドアップ」を基本戦術としています。もし、自陣に引いて守備ブロックを固める伝統的な守備を選択した場合、相手に時間とスペースをふんだんに与えてしまい、思う存分に攻撃を組み立てさせてしまいます。
ゲーゲンプレスは、この「ビルドアップ」戦術に対する完璧な解答と言えます。ボールを失った瞬間にプレスをかけることで、相手にビルドアップの余裕を与えず、パスの出しどころを限定させ、ミスを誘発します。相手の強みであるはずの組織的なポゼッションを、トランジションの瞬間に叩くことで、逆に最大の弱点へと変えてしまうのです。
このように、ゲーゲンプレスは単なる守備戦術ではなく、相手のゲームプランを根底から破壊し、試合の主導権を握るための攻撃的な戦略として現代サッカーに不可欠な要素となっています。
2. ゲーゲンプレスの心臓部:「5秒ルール」と2つの核心的メリット
ゲーゲンプレスという哲学を、ピッチ上で機能させる具体的なメカニズムは何でしょうか。その核心には、「5秒ルール」という鉄則と、それによってもたらされる2つの絶大なメリットが存在します。このセクションでは、ゲーゲンプレスの心臓部とも言えるこれらの要素を詳しく解説します。
2-1. 勝利を引き寄せる鉄則「5秒ルール」の全貌
ゲーゲンプレスを語る上で欠かせないのが、「5秒ルール」という行動原則です。これは、ボールを失った瞬間から「5秒以内」に、チーム全体で最大限の強度でプレスをかけ、ボールを奪い返すことを目指すというルールです。
なぜ「5秒」なのでしょうか。それは、ボールを奪った直後の相手が、守備から攻撃へと切り替わる中で最も陣形が乱れ、思考が整理されていない時間帯だからです。このわずかな時間を逃さず、複数人で一気にプレッシャーをかけることで、ボール奪回の成功率を劇的に高めます。
しかし、ここで非常に重要なのは、5秒経過してもボールを奪い返せなかった場合のプランです。もし5秒間のプレッシングが失敗した場合、チームは深追いをやめ、即座に自陣方向へ後退し、コンパクトな守備ブロックを形成するのです。この切り替えが、ゲーゲンプレスを単なる無謀な特攻ではなく、計算された戦術へと昇華させています。
このルールは、選手たちに明確な判断基準を与えます。「いつプレスをかけ、いつ諦めて守備に戻るのか」という共通認識がチーム全体に浸透することで、無駄な体力消耗を防ぎ、戦術的な一貫性を保つことができます。つまり、「5秒ルール」は、ハイリスク・ハイリターンなプレッシングを管理し、リスクを最小限に抑えながらリターンを最大化するための、極めて優れたリスクマネジメント・フレームワークなのです。
2-2. メリット1:相手の息の根を止める「ショートカウンター」の発動
ゲーゲンプレスがもたらす最大のメリットは、何と言っても破壊力抜群の「ショートカウンター」を発動できる点です。
ショートカウンターとは、敵陣の高い位置でボールを奪い、短いパス交換やドリブルで一気にゴールへ迫る攻撃を指します。ゲーゲンプレスが成功すると、まさにこの理想的な状況が生まれます。クロップ監督が言うように、「(高い位置で奪えれば)たった1本のパスで本当にいいチャンスになる」のです。
具体的な場面を想像してみてください。自チームが相手ペナルティエリアから約25メートルの位置でボールを失ったとします。相手のディフェンダーは前に押し上げ、ミッドフィルダーは前を向いてパスコースを探し始めています。この瞬間にゲーゲンプレスが発動し、ボールを奪い返せたとしましょう。すると、目の前には前がかりで陣形が崩れた相手守備陣と、広大なスペースが広がっています。自陣のハーフウェイライン付近でボールを奪い、10人が待ち構える守備ブロックを崩すのとでは、ゴールの可能性が天と地ほど違うのは明らかです。
このように、ゲーゲンプレスは相手の攻撃の芽を摘むと同時に、最も効率的で決定的な得点機会を創出する、一石二鳥の攻撃戦術なのです。
2-3. メリット2:守備の安定化とゲームの主導権掌握
ゲーゲンプレスは究極の攻撃戦術であると同時に、最も効果的な守備戦術でもあります。これは「攻撃は最大の防御」という言葉を、最も高いレベルで体現した戦術と言えるでしょう。
ボールを失った瞬間にプレスをかけることで、相手にカウンター攻撃を仕掛ける時間を与えません。危険なパスが出る前に、その供給源を断ってしまうのです。これにより、自チームのディフェンダーが数的不利な状況で相手の速い攻撃に晒されるリスクを大幅に軽減できます。
さらに、絶え間ないプレッシャーは相手に心理的な影響も与えます。ボールを持っても常にプレッシャーに晒されるため、相手選手は落ち着いてプレーできなくなり、焦りからパスミスや判断ミスを犯しやすくなります。結果として、試合のテンポや流れはゲーゲンプレスを仕掛けるチームが支配することになります。たとえボールポゼッション率で下回っていたとしても、試合の主導権を握り、相手を自分たちの土俵で戦わせることができるのです。
3. ゲーゲンプレスの4つの流派:名将たちが生み出した戦術の多様性
「ゲーゲンプレス」と一括りにされがちですが、実はそのアプローチは一様ではありません。監督の哲学や選手の特性によって、プレスの「何を基準に」「何を狙うか」が異なり、いくつかの流派に分類できます。この戦術の多様性を理解することは、各チームの個性を深く知る上で非常に重要です。
実は、ゲーゲンプレスはユルゲン・クロップ監督の専売特許ではありません。彼の最大のライバルの一人であるジョゼップ・グアルディオラ監督も、独自の解釈でこの戦術を駆使しています。ここでは、代表的な4つの流派を、具体的なチーム例とともに解説します。この分類を知ることで、あなたが試合を観る際の新たな分析視点が手に入るはずです。
| タイプ (Type) | 代表的なチーム (Representative Team) | 基準(何を狙うか) (Target) | 特徴 (Characteristics) |
| A. プレーエリア制圧型 | クロップのドルトムント | 相手のプレーエリア | 特定のゾーンに選手を密集させ、そのエリア内の相手を完全に包囲・圧殺する。 |
| B. パスの受け手制圧型 | バイエルン・ミュンヘン | パスの受け手 | 一時的にマンマークを敢行。パスは出させ、受け手に対して1対1や数적優位を作り出して潰す。 |
| C. パスコース制圧型 | グアルディオラのバルセロナ | 相手のパスコース | 意図的に一つのパスコースだけを残し、相手を罠に誘導して予測通りにボールを奪い取る、知的なアプローチ。 |
| D. ボールホルダー制圧型 | 1974年オランダ代表 | ボール保持者 | ボール保持者に対し、複数の選手が一斉に襲いかかるカオスな数的暴力。 |
3-1. クロップの代名詞「プレーエリア制圧型」
これは、ユルゲン・クロップ監督がドルトムント時代に完成させ、世界にその名を知らしめたスタイルです。このアプローチの基準は、ボール保持者個人ではなく、「相手がプレーしているエリアそのもの」です。
あらかじめ定められた特定のゾーンでボールを失った瞬間に、スイッチが入ります。周辺の選手たちが一斉にそのエリアに殺到し、局地的に圧倒的な数的優位を作り出します。目的は、そのエリア内の相手選手を完全に包囲し、パスコースもドリブルコースも全て塞いで窒息させることです。ボールを奪う前から、選手たちはこのプレスの発動を予測して適切なポジションを取っている必要があり、極めて高度な連携と運動量が求められます。
3-2. バイエルンが見せた「パスの受け手制圧型」
これは、マンマーク(マンツーマンディフェンス)の要素を取り入れた、より対人志向の強いゲーゲンプレスです 1。このスタイルの基準は、「パスの受け手となるであろう相手選手」です。
ボールを失った瞬間、ボールに最も近い1人か2人の選手がボールホルダーにプレッシャーをかけます。それと同時に、他の選手たちは自分の近くにいる相手選手を一時的にマンマークし、パスが出た瞬間に厳しく寄せる準備をします。パス自体は比較的簡単に出させてしまいますが、ボールが受け手に渡る瞬間に1対1の局面や、2対1の数的優位を作り出し、そこで確実にボールを刈り取ることを狙いとします。個々の選手の対人能力の高さが成功の鍵を握るスタイルです。
3-3. グアルディオラの哲学「パスコース制圧型」
これは、最も戦術的かつ知的なゲーゲンプレスと言えるでしょう。ジョゼップ・グアルディオラ監督が率いたバルセロナがこのスタイルを実践していました。このアプローチの基準は、「相手のパスコース」そのものです。
選手たちはやみくもにボールを追いかけるのではなく、相手の次のプレーを予測してポジションを取ります。そして、意図的に安全に見えるパスコースを一つだけ残し、他の選択肢を全て消してしまうのです 1。相手は、その唯一空いているコースにパスを出すしかなくなり、そこへ予測通りにパスが出たところを狙いすましてインターセプトします。まるでチェスのように、相手の動きを数手先まで読み、罠に嵌めるようなプレッシングです。身体的な消耗が比較的少ないメリットがありますが、極めて高い戦術眼と選手間の完璧な意思疎通が不可欠です。
3-4. 伝説のオランダ代表「ボールホルダー制圧型」
これは、ゲーゲンプレスの最も原始的で、最もアグレッシブな形態です。1974年のオランダ代表が見せたスタイルがこれに該当します。基準は非常にシンプルで、「ボールを持っている選手(ボールホルダー)」ただ一人です。
ボールを失った瞬間、近くにいる選手たちが後先のことを考えず、一斉にボールホルダーに襲いかかります。パスコースを消すことや、他の選手をマークすることは二の次で、とにかく人数をかけてボールを奪い切ることを最優先します。その圧倒的な圧力は相手をパニックに陥れますが、一枚剥がされると広大なスペースを相手に献上してしまうという、非常にハイリスクな戦術です。現代サッカーでは、このカオスなスタイルをそのまま採用するチームは稀ですが、その思想は全てのプレッシングの原点として今も息づいています。
4. 実践例で見るゲーゲンプレス:クロップがリヴァプールで完成させた芸術
理論を学んだ後は、それが現実のピッチでどのように機能し、栄光をもたらしたのかを見るのが最も理解を深める方法です。ゲーゲンプレスを語る上で、ユルゲン・クロップ監督がリヴァプールで成し遂げた2019年のチャンピオンズリーグ制覇は、完璧なケーススタディと言えるでしょう。
4-1. 2019年チャンピオンズリーグ制覇の原動力となった戦術システム
クロップ監督がリヴァプールで採用した基本フォーメーションは、4-3-3システムでした。この布陣は、ゲーゲンプレスを実行する上で極めて合理的な構造を持っています。
まず、前線の3人(3トップ)がプレスの第一波として機能し、相手ディフェンスラインに絶えずプレッシャーをかけます。彼らの背後には、運動量豊富な3人のミッドフィルダーが構え、プレスをサポートし、こぼれ球を回収する第二波となります。そして、ディフェンスラインを高く設定することで、中盤との距離を縮め、ピッチ全体をコンパクトに保ちます。これにより、相手がプレーできるスペースを極限まで圧縮し、チーム全体が連動して獲物を追い詰める「網」のようなプレッシングが可能になるのです。
この4-3-3システムは、選手たちがそれぞれの役割を理解し、一つの生命体のように動くことで、ゲーゲンプレスの効果を最大化するための理想的な器でした。
4-2. 前線の3人(サラー、フィルミーノ、マネ)が担った驚異的な連動性
2019年のリヴァプールを象徴するのは、モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネの3トップです。彼らは単なる点取り屋ではなく、ゲーゲンプレスというシステムのエンジンそのものでした。
特に、中央に位置したフィルミーノの役割は戦術的に極めて重要でした。彼は、相手のセンターバックにプレッシャーをかけながら、カーブを描くように走ることで中盤へのパスコースを切り、相手のビルドアップを機能不全に陥れました。フィルミーノが中央を制限すると、サイドのサラーとマネが相手のサイドバックやもう一方のセンターバックに襲いかかり、完璧に連動した罠でボールを奪い取りました。
彼らの驚異的な運動量と戦術理解度、そして献身性がなければ、リヴァプールのゲーゲンプレスは成り立ちませんでした。彼らは守備の第一線であると同時に、ボールを奪った瞬間にゴールへ向かう攻撃の最前線でもあったのです。
4-3. ゲーゲンプレスを支える選手に求められる3つの必須能力
リヴァプールの成功例から、ゲーゲンプレスを高いレベルで実行するために選手に求められる能力を3つに集約できます。この戦術は、特定のスター選手一人では機能せず、チーム全員がこれらの資質を備えている必要があります。
- 1. 驚異的な運動量 (Incredible Stamina)90分間、何度も繰り返される高強度のスプリントに耐えうる、並外れた身体能力が絶対条件です 2。プレスの強度を試合終了まで維持できなければ、システムの根幹が揺らいでしまいます。
- 2. 高度な戦術理解度と連携 (High Tactical Intelligence & Coordination)いつ、誰が、どのようにプレスをかけるのか。その引き金(トリガー)となるプレーは何か。選手全員が同じ絵を描き、完璧に同調して動く必要があります。一人が勝手な判断でプレスをかけると、陣形に穴が開き、そこから一気に崩される危険があります。
- 3. 優れた状況判断力 (Excellent Decision-Making)前述の「5秒ルール」を実践するための能力です。プレスが成功しそうか、それとも深追いは危険かを瞬時に判断し、チーム全体で行動を切り替える冷静さが求められます。この判断力なくして、ハイリスクな戦術を管理することは不可能です。
これらの能力は、一朝一夕で身につくものではありません。日々のトレーニングでの反復練習はもちろん、クラブのスカウティング部門が選手の獲得段階からこれらの資質を見抜く必要があります。つまり、ゲーゲンプレスの導入は、単なる監督の戦術選択に留まらず、選手育成、補強戦略、メディカルサポートまで含めた、クラブ全体のプロジェクトなのです。
5. ゲーゲンプレスの弱点とリスク:諸刃の剣を使いこなす難しさ
どんなに優れた戦術にも、必ず弱点やリスクは存在します。ゲーゲンプレスも例外ではなく、その攻撃的な性質の裏には、大きな危険が潜んでいます。この「諸刃の剣」を理解することは、戦術の光と影の両面を知る上で不可欠です。
5-1. 弱点1:驚異的な運動量がもたらす終盤のガス欠リスク
最も分かりやすい弱点は、その圧倒的な運動量に起因する身体的な消耗です。90分間、常に高いインテンシティを維持することは、人間の身体能力の限界に挑戦するようなものです。
試合の終盤、特に残り20分から30分になると、選手たちの足が止まり始め、プレスの強度が目に見えて落ちてくることがあります。疲労が蓄積すると、スプリントの速度が落ちるだけでなく、集中力や判断力も鈍ります。そうなると、プレスに行っても相手に簡単にかわされたり、連動性が失われて陣形に大きな穴が生まれたりします。
この終盤のガス欠は、ゲーゲンプレスを採用するチームが最も失点しやすい時間帯の一つです。そのため、監督には選手交代による的確なマネジメント能力や、試合展開に応じたペース配分を指示する能力が求められます。また、シーズンを戦い抜くためには、質の高い選手を揃えた分厚い選手層が不可欠となります。
5-2. 弱点2:1枚剥がされた瞬間に訪れる広大なスペースという危険
戦術的な観点から見た最大の弱点は、プレスの第一波を突破された瞬間に生じるリスクです。ゲーゲンプレスは、チーム全体が前がかりになり、ディフェンスラインを高く設定することで成り立っています。このコンパクトな陣形が、プレスの強度を高める源泉です。
しかし、その裏返しとして、ディフェンスラインの背後には広大なスペースが生まれます。もし、相手の技術の高い選手にドリブルや巧みなパスでプレスの網を一枚破られてしまうと、その選手の前には無人の荒野が広がっている、という状況になりかねません。
たった一人の選手の判断ミスや、相手の華麗な個人技一つで、前線にいる味方選手が一気に置き去りにされ、数少ないディフェンダーが相手の高速カウンターに晒されることになります。これこそが、ゲーゲンプレスが「ハイリスク・ハイリターン」と言われる所以です。たった一つのミスが即座に決定的なピンチに繋がるため、選手には常に完璧な連携と集中力が求められます。
5-3. 対策:アンチ・ゲーゲンプレス戦術とは?
では、相手チームはどのようにしてこの強力なゲーゲンプレスに対抗しようとするのでしょうか。その対策、いわゆる「アンチ・ゲーゲンプレス」を知ることで、ピッチ上で繰り広げられる戦術的な駆け引きをより深く楽しむことができます。
- ロングボールでプレスを無力化する最もシンプルな対策は、前線からのプレスそのものを飛び越えてしまうことです。相手ディフェンスラインの背後にある広大なスペースを狙い、足の速いフォワードへ向けてロングボールを蹴り込みます。これにより、中盤でのプレスの網を完全に無力化し、一気にチャンスを作り出すことを狙います。
- プレス耐性の高い選手でいなすプレッシャーの中でも冷静にボールをコントロールし、正確なパスやドリブルで相手を剥がせる「プレス耐性」の高い選手を中盤に配置するのも有効な手段です。彼らがプレスの第一波をいなすことで時間を作り、チーム全体が落ち着いて攻撃を組み立てる態勢を整えることができます。
- あえてゆっくり攻める「アンチ・プレス」相手のプレスを逆手に取る戦術もあります。あえてボールをゆっくりと動かし、相手が食いついてくるのを待ちます。相手が前がかりになったところで、空いたスペースに素早くボールを送り込み、カウンターを狙うのです。これは、相手の土俵で戦うことを拒否し、忍耐強くチャンスを待つ、心理戦の様相を呈します。
6. まとめ:ゲーゲンプレスを理解すればサッカー観戦が10倍楽しくなる
ここまで、ゲーゲンプレスの本質から具体的な戦術、成功事例、そして弱点に至るまでを詳しく解説してきました。最後に、この記事の重要なポイントを振り返りましょう。
- ゲーゲンプレスは単なる守備戦術ではなく、「ボールを失った瞬間が最大のチャンス」と捉える究極の攻撃哲学です。
- その心臓部には「5秒ルール」というリスクマネジメントの仕組みがあり、無謀な特攻とは一線を画します。
- クロップ式、グアルディオラ式など、監督によって狙いが異なる4つの流派が存在し、戦術の多様性を示しています。
- 成功のためには、個々の能力だけでなく、スカウティングからメディカルまで含めたクラブ全体の強固な哲学とサポート体制が不可欠です。
ゲーゲンプレスは、現代サッカーのスピード、インテンシティ、そして戦術的な複雑さを象徴する存在です。この戦術を理解することは、ピッチ上で選手たちが何を考え、チームとして何を狙っているのかを読み解くための強力な武器となります。
次にあなたがサッカーの試合を観る時、ぜひボールを失った瞬間の選手たちの動きに注目してみてください。誰がスイッチを入れ、どのように連動してボールを追い詰めていくのか。あるいは、なぜあえてプレスに行かないという判断をしたのか。その背景にある戦術的な意図が見えてくれば、一つ一つのプレーが持つ意味の深さに気づき、サッカー観戦がこれまで以上に知的でエキサイティングな体験になることをお約束します。
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