サッカーの勝敗を左右する重要ルール「ドグソ(DOGSO)」とは?4つの条件から罰則まで徹底解説
「ドグソ」はサッカーの面白さを守るためのルール
サッカー観戦中、「決定的チャンスだったのにファウルで止められた!」と感じる瞬間はありませんか。もしそのファウルがなければ1点が入っていたかもしれない、そんな白熱した場面で適用されるのが「ドグソ(DOGSO)」というルールです。
このルールは、単に反則を罰するためだけに存在するわけではありません。その本質は、サッカーというスポーツの最大の魅力である「ゴールが生まれる瞬間」を守ることにあります。1980年代、勝利のために得点機会を意図的に反則で潰す、いわゆる「プロフェッショナル・ファウル」が問題視されるようになりました。このようなプレーは、試合の興奮を削ぎ、サッカーの魅力を半減させてしまいます。そこで、決定的な得点機会を阻止する悪質なファウルには、フリーキックやペナルティーキック(PK)だけでなく、選手が退場するという厳しい罰則を科すことで、攻撃的で面白いサッカーを維持しようという考えから生まれました。ドグソは、サッカーの醍醐味を守るための、いわば「番人」のような存在なのです。
なぜ「ドグソ」と呼ばれるの?その由来と歴史
「ドグソ」という少し変わった響きの言葉は、英語の頭文字を取った略語です。その正式名称は「Denying an Obvious Goal-Scoring Opportunity」と言います。
それぞれの単語の意味を分解してみると、このルールの意味がより明確に理解できます。
- D – Denying(ディナイング):阻止する
- O – Obvious(オブビアス):決定的な、明らかな
- G – Goal(ゴール):ゴール
- S – Scoring(スコアリング):得点する
- O – Opportunity(オポチュニティ):機会
つまり、直訳すると「決定的(明白)なゴール得点機会の阻止」となります。この考え方自体は1980年代から存在し、1990年のイタリアワールドカップから競技規則に明記されましたが、「DOGSO」という言葉が独立した項目として広く使われるようになったのは2007年頃からです。今では世界中のサッカーシーンで共通して使われる重要な用語となっています。
ドグソが適用されるための「4つの必須条件」を1つずつ理解しよう
ドグソの判定は、試合の流れを大きく変えるため、審判は非常に慎重に判断を下します。「決定的なチャンスだった」という主観的な印象だけでなく、明確に定められた4つの条件をすべて満たしているかどうかを、論理的なチェックリストのように確認していきます。
この4つの条件は、いわば審判が頭の中で行う確認作業です。ファンである私たちもこの「4つのチェックリスト」を理解することで、なぜあのプレーがドグソになったのか、あるいはならなかったのかを深く理解できるようになります。一つでも条件が満たされなかったり、少しでも疑わしい点があったりすれば、ドグソとは判定されません。
条件1:反則とゴールとの距離 – 「そこから狙えるか」が最初の基準
最初のチェック項目は、反則が起きた場所とゴールとの物理的な距離です。当然ながら、ゴールから遠い場所でのファウルよりも、近い場所でのファウルの方が得点の可能性は高まります。
明確に「ゴールから何メートル以内」という規定はありませんが、一般的にはペナルティエリア内やその付近、およそゴールから25m以内のプレーが目安とされています。ただし、これはあくまで目安です。例えば、ハーフウェーライン付近であっても、相手ディフェンダーが誰もおらず、ゴールキーパーと1対1で完全に独走している状況で倒された場合は、ゴールまでの距離が遠くてもドグソが適用される可能性は十分にあります。重要なのは「その反則がなければ、得点を狙える現実的な距離だったか」という点です。
条件2:プレー全体の方向性 – ゴールに向かっているか
2つ目の条件は、攻撃側のプレーヤーとボールが、全体として相手ゴールに向かっていたかどうかです 2。ゴールを奪うためには、当然ゴール方向へ進む必要があります。
例えば、相手ディフェンダーを背負ってボールを受ける「ポストプレー」のように、ゴールに背を向けた状態でファウルを受けても、それは決定的な得点機会とは見なされず、ドグソの対象外となります 2。しかし、ここで重要なのは「プレー全体のベクトル」です。ドリブルでゴールキーパーをかわそうとして、一時的に体の向きが真横になったとしても、プレー全体の流れがゴールに向かっているのであれば、この条件は満たされると判断されます。
条件3:守備側競技者の位置と数 – カバーできる選手は他にいないか
3つ目の条件は、ファウルを犯した守備側の選手以外に、その攻撃を阻止できる味方選手が近くにいたかどうかです。俗に言う「ラストマン」の状況がこれに当たります。
典型的な例は、攻撃側の選手がディフェンスラインを完全に突破し、ゴールキーパーと1対1になった場面です 5。この状況でファウルをすれば、他にカバーできる選手はいないため、ドグソと判定される可能性が極めて高くなります。たとえ近くに他のディフェンダーがいたとしても、その選手が明らかに追いつけない位置にいたり、プレーに関与できない体勢だったりした場合は、「カバーできる選手はいない」と見なされます。選手の数だけでなく、現実的に守備ができる位置にいたかが問われるのです。
条件4:ボールをコントロールできる可能性 – もし反則がなければ…
4つの条件の中で最も重要かつ、時に判断が分かれるのがこの項目です。それは「ファウルがなければ、攻撃側の選手はボールをコントロールし、シュートや次のプレーに移れた可能性が高かったか」という点です。
いくらゴール前でフリーになっていても、パスが強すぎてボールに追いつけそうになかったり、トラップが大きく乱れてしまったりした状況でファウルを受けても、それは「決定的な機会」とは言えません 2。ボールを自分の意のままに扱える状態であったことが大前提となります。後の具体例で触れますが、川崎フロンターレの谷口彰悟選手が退場となったシーンでは、相手選手のトラップが少し長くなったものの、十分にコントロール可能な範囲と判断され、ドグソが適用されました。この「可能性」の判断が、審判の腕の見せ所でもあるのです。
レッドカード?イエローカード?ドグソの罰則を分ける決定的な違い
ドグソが適用されると、ファウルを犯した選手には厳しい罰則が科せられます。しかし、その罰則は必ずしもレッドカード(一発退場)とは限りません。状況によってイエローカードに軽減されるケースがあり、この違いを理解することが、現代サッカーのルールを深く知る上で非常に重要です。
原則はレッドカード!一発退場が基本となる理由
まず大原則として、ドグソに該当するプレーの罰則はレッドカードです。これは、ほぼ確実に生まれるはずだった1点を不正な手段で阻止したことに対する、極めて重いペナルティです。チームは残りの試合時間を1人少ない状態で戦わなければならず、退場した選手は次の試合にも出場できません。この厳しい罰則があるからこそ、ディフェンダーは安易に決定機をファウルで止めようとせず、正々堂々とプレーで防ごうとします。ドグソの罰則の厳しさは、アンフェアなプレーへの強力な抑止力として機能しているのです。
なぜイエローカードに?物議を醸した「三重罰」の緩和
しかし、ある特定の状況下では、ドグソであっても罰則がイエローカードに軽減されます。その背景には、かつて「三重罰(さんじゅうばつ)」と呼ばれ、あまりに厳しすぎると物議を醸したルールがありました。
「三重罰」とは、ペナルティエリア内で決定的な得点機会をファウルで阻止した場合に、
- 相手チームにPKが与えられる
- ファウルした選手はレッドカードで退場
- 退場した選手は次節出場停止という3つの罰が同時に科されることを指します。PKが与えられることで得点の機会は相手に回復されているにもかかわらず、さらに退場と出場停止まで科すのは過剰ではないか、という声が世界的に高まりました。
この意見を受け、2016年にルールが改正され、この三重罰は緩和されることになりました。具体的には、ペナルティエリア内でのドグソであっても、そのファウルが
ボールに対して正当にチャレンジしようとした結果のものであれば、レッドカードではなくイエローカードが提示されるようになったのです。この改正は、単なる罰則の軽減ではありません。悪意のある非紳士的なファウルと、純粋なサッカーのプレーの中で起きてしまったミスとを区別し、罰則の妥当性を高めようという、サッカーのルールにおける哲学的な転換点だったと言えるでしょう。
ペナルティエリア内でも退場になる悪質なプレーとは
三重罰が緩和されたからといって、ペナルティエリア内でのドグソがすべてイエローカードになるわけではありません。ボールにプレーする意図がない、あるいは悪質だと判断される特定のプレーについては、これまで通りレッドカードが提示されます。
以下のようなプレーは、たとえペナルティエリア内であっても一発退場の対象となります。
- ホールディング、プッシング:相手選手を手で押さえたり、ユニフォームを引っ張ったりする行為
- ハンドリング:意図的に手や腕でボールに触れる行為
- ボールにプレーする可能性がないチャレンジ:ボールを奪う見込みが全くないにもかかわらず、無謀に相手選手にタックルするなどの危険なプレー
- 乱暴な行為:その他、フィールドのどこであっても退場が命じられるような悪質な行為
つまり、ディフェンダーが「ボールを奪いに行く」というサッカーの本質的なプレーを試みた上でのファウルであればイエローカードに軽減されますが、相手のプレーそのものを妨害するような「ずるい」行為は、依然としてレッドカードの対象となるのです。
似ているようで全く違う!「SPA(スパ)」との違いを明確にする
ドグソと非常によく似た状況で使われる言葉に「SPA(スパ)」があります。どちらもチャンスを潰すファウルですが、その深刻度と適用条件、そして罰則には明確な違いがあります。この2つを区別できるようになると、審判の判定に対する理解度が格段に上がります。
SPAとは「大きなチャンスの阻止」のこと
SPAとは、「Stop a Promising Attack」の略語で、日本語では「大きなチャンスとなる攻撃の阻止」と訳されます。その名の通り、得点に結びつく可能性のある有望な攻撃を、反則によって妨害するプレーを指します。
ドグソとの最も大きな違いは、その適用条件にあります。前述したドグソの「4つの必須条件」のうち、1つでも満たされなかった場合に適用されるのがSPAです。例えば、カウンター攻撃を受けている選手を中盤でファウルで止めたとします。ゴールには向かっていますが、まだ他のディフェンダーがカバーできる位置にいた場合、「条件3:守備側競技者の位置と数」が満たされないため、ドグソではなくSPAと判断されるのです。
ドグソとSPAの判断基準を比較
ドグソとSPAの違いをより分かりやすくするために、以下の表にまとめました。この表を見れば、両者の違いが一目瞭然です。状況の深刻度や罰則が全く異なることが、サッカー観戦の際の重要な判断材料になります。
| 項目 | DOGSO(ドグソ) | SPA(スパ) |
| 正式名称 | Denying an Obvious Goal-Scoring Opportunity | Stop a Promising Attack |
| 日本語訳 | 決定的な得点機会の阻止 | 大きなチャンスとなる攻撃の阻止 |
| 状況の深刻度 | 「ほぼ間違いなく1点」という決定的状況 | 「得点につながるかもしれない」有望な状況 |
| 4条件の適用 | 4つすべてを満たす必要がある | 4つのうち1つでも満たさない場合に適用 |
| 主な罰則 | レッドカード(退場)※軽減措置あり | イエローカード(警告) |
| 具体例 | GKと1対1の選手を後ろから倒す | カウンターを仕掛けた選手を中盤で服を引っ張って止める(後ろにまだDFがいる) |
実際のプレーで見てみよう!JリーグやW杯の有名シーンから学ぶドグソ判定
ルールを文章で理解するのも大切ですが、実際の試合で起きた事例を見ることで、その適用基準はより深く、鮮明に理解できます。ここでは、Jリーグやワールドカップで実際に起こり、議論を呼んだ有名なシーンを振り返りながら、ドグソの判定を学んでいきましょう。これらの事例は、テクノロジー(VAR)がいかに判定に影響を与えるかを示す好例でもあります。
【Jリーグ】川崎フロンターレ・谷口彰悟選手とドグソを巡る因縁
元川崎フロンターレの日本代表DF谷口彰悟選手は、キャリアの中で何度もドグソによる退場を経験しており、その判定は多くの議論を呼びました。特に印象的なのは、2019年のルヴァンカップ決勝と2022年のサガン鳥栖戦です。
- 2019年ルヴァンカップ決勝 vs 北海道コンサドーレ札幌: 延長前半、ドリブルで突破するチャナティップ選手に対し、谷口選手が体を入れて対応したプレーがファウルと判定されました。当初はイエローカードでしたが、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の介入によるオンフィールドレビューの結果、ドグソと判断されレッドカードに変更。チームは数的不利に陥りました。
- 2022年J1リーグ vs サガン鳥栖: 後半38分、鳥栖の垣田裕暉選手の突破を谷口選手がファウルで阻止。この場面でも、主審は一度イエローカードを提示しましたが、VARの介入を経て判定がレッドカードに覆りました。
これらのプレーは、いずれも接触が軽微に見えるものの、「4つの条件」に照らし合わせるとドグソと判断できる要素がありました。特に、VARによってプレーが多角的に、そしてスローモーションで検証されるようになった現代サッカーでは、ほんのわずかな接触や状況が、試合を決定づける退場という結果につながることを示しています。谷口選手自身が「世界で1番怖いものはドグソ」と語ったという逸話も残っています。
【プレミアリーグ】アーセナルDFダビド・ルイス選手の不運な退場劇
2021年2月、当時アーセナルに所属していたDFダビド・ルイス選手がウォルバーハンプトン戦で見せたプレーも、ドグソの複雑さを象徴しています。前半終了間際、ペナルティエリア内に走り込んできた相手選手に対し、後ろから追いかけていたダビド・ルイス選手の膝が、相手選手のかかとにわずかに接触。相手選手は転倒し、主審はPKを宣告するとともにダビド・ルイス選手にレッドカードを提示しました。
この判定は、接触が非常に小さかったため大きな議論を呼びました。しかし、ルール上は「ボールにプレーする可能性がないチャレンジ」と見なされ、三重罰の緩和が適用されないケースに該当したのです 9。意図的ではなかったとしても、結果的にボールではなく相手選手の足に接触してしまったことで、悪質なプレーと判断された典型例です。
【W杯】2022年カタール大会で起きたメキシコ代表DFの判定
サッカーの世界最高峰の舞台であるワールドカップでも、ドグソの判定は勝敗を左右します。2022年カタール大会では、メキシコ代表DFが関わる2つの対照的なシーンがありました。
あるグループリーグの試合では、メキシコ代表DFが相手FWのユニフォームを執拗に引っ張って倒したにもかかわらず、主審は「軽度」と判断しイエローカードを提示。これは「決定機阻止ではないか」と大きな批判を浴びました 5。一方で、U-24日本代表との親善試合では、上田綺世選手を倒したメキシコのセサル・モンテス選手が、VAR介入の末にドグソで一発退場となっています 15。同じような状況でも、審判の判断やVARの介入の有無で結果が大きく変わることを示す事例です。
【Jリーグ】2023年に見られた象徴的なハンドによるドグソ
ドグソの判定には時として微妙なケースもありますが、誰が見ても明らかな事例も存在します。2023年のJリーグで見られた、ディフェンダーによるハンドのプレーは、その象徴と言えるでしょう。ゴールキーパーが前に出されて無人となったゴールへシュートが放たれた際、ゴールライン上にいたディフェンダーが、とっさに手を使ってボールをセーブしてしまいました。
これは「ゴールキーパー以外の選手が意図的に手で得点を阻止する」という、最も明白なドグソの形です。もちろん、このプレーにはレッドカードが提示され、相手チームにPKが与えられました 5。議論の余地のない、ルールを学ぶ上で非常に分かりやすい事例です。VARの導入以降、こうした見逃しが減った一方で、一発退場の数は増加傾向にあるというデータもあります。
まとめ:ドグソを知れば、サッカー観戦が10倍面白くなる
「ドグソ」は、単なる難しい反則ルールではありません。サッカーの試合における最もエキサイティングな瞬間、つまり「ゴール」を守るために作られた、スポーツの根幹に関わる重要なルールです。
今回解説した「4つの必須条件」というチェックリストを頭に入れて試合を観ることで、あなたは審判と同じ視点に立ってプレーを分析できるようになります。なぜあのファウルでレッドカードが出たのか、なぜ似たようなプレーなのにイエローカードで済んだのか。その背景にあるルール改正の歴史や、「SPA」との違いまで理解すれば、これまで以上に深く、そして熱くサッカーの議論を楽しめるようになるはずです。
ドグソを知ることは、試合の勝敗を分ける決定的な判定の意図を読み解く鍵となります。この知識を武器に、次のサッカー観戦を10倍楽しんでみてはいかがでしょうか。
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